一般社団法人エゾシカ協会

伊藤英人の狩猟本の世界


伊藤英人「狩猟本の世界」

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150.『死の所有』一ノ瀬正樹著、東京大学出版会、2011年


150.『死の所有』一ノ瀬正樹著、東京大学出版会、2011年サブタイトルは「死刑・殺人・動物利用に向きあう哲学」。

「お命もらいうける」「死んで償う」といった命の受け渡しは、生あるいは死を所有してこそ成り立つ。しかし、この受け渡しの結果、マリオの1upのように命が2つになったり、0になったりすることはない。さらに、0の人間は人間ではなく死体であり、人権や所有権が存在せず、生あるいは死を所有しているという表現は矛盾である。したがって、「生の所有」あるいは「死の所有」という考えは幻想にすぎない、とする。この視点で、死刑、殺人、安楽死など死にまつわる問題点を整理している。死刑制度について存続か廃止かではなく「不可能」との立場をとるなど、現行制度とまるで違う斬新さがあるが、私には納得のいくものであった。

ありがたいことに、著者はこの概念を動物に拡張して論考している(きっかけは愛犬の死である)。肉食は「日常的な殺戮」とストレートに表現している。最近私がオカシイと思うようになった、食べるときに「いのちをいただく」という表現や、以前からオカシイと思っていた、命を奪う側が供養するという矛盾には、屠殺に対するうしろめたさからその作業を社会的に隠蔽し、きれいな表現に置き換える悪意が潜んでいた。これを著者は「自己欺瞞の病理というべき事態」と批判する。

ここで、動物の問題をあえて強引に人間の倫理問題に置き換えて、肉食は殺人、クリーンキルは安楽死、駆除やカリングは侵略戦争あるいは侵略に対する国家防衛、と読み換えて考察し、それぞれの倫理観を整理するのもあながち的外れではない気がする。実際、動物利用にうしろめたさを感じたり、駆除やカリングに大義を見出せず苦悩したりする方もいると思われる。その現実は直視しなければならないものであるが、それは作業者だけの仕事ではない。恩恵だけ享受して現実を見ようとしない人にこそ背負ってほしい。

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