赤坂猛「野生動物問題よもやまばなし」
  • あかさか・たけし
  • 一般社団法人エゾシカ協会代表理事。2008年度より石狩圏に生息するエゾシカの生息実態調査等に着手。一方、地域に埋もれ行くタンチョウなど「野生動物と人との関係史」の発掘調査にも取り組んでいる。調査手法はひたすら「歩く・観る・聴く」そして「編む」、とシンプル。

第6回 昭和20年代、GHQと狩猟法

GHQの勧告

1946(昭和21)年夏、GHQ・天然資源局野生生物科長オースチン博士が東京に着任しました。博士は、鳥類の専門家として、来日後直ちに日本全国を視察し、野生鳥獣の著しい減少に驚き、保護の徹底と狩猟の規制を強く日本政府に勧告しました(林野庁 1969)。

「勧告」は、狩猟法の改正に関する事項など多岐に及ぶもので、その概要は次の通りです(大日本猟友会 1984)。

以上、GHQ・天然資源局野生生物科長オースチン博士が中心となって、とりまとめた勧告の概要です。勧告は、「狩猟鳥の大胆な見直し」、「捕獲鳥の数の制限」更には「甲種免状の廃止」など、すべてが狩猟鳥に関するものであり、かつ狩猟法の改正を必要とする「重い課題」でした。

ところで、私は、この「狩猟鳥」に絞り込まれた『勧告』には違和感を抱いております。もし、オースチン博士が哺乳類の専門家であったならば、『勧告』には「狩猟獣」への提案なども期待できたのではないか、と思料しています。

狩猟鳥獣の「捕獲数の制限」施策は現在にも引き継がれていますが、未だ「狩猟鳥」がメインとなっています。私は、ヒグマなどクマ類にも(こそ)捕獲数の制限が必要ではないか、と考えています。要するに、我が国には、「捕獲数を制限」するという博士の野生動物の保護管理思想が伝わることなく今日に至っているからに他ならない、と考えています。

狩猟法・施行規則等の改正へ

GHQの勧告などを経て、翌1947(昭和22)年9月9日には狩猟法・施行規則等が改正されました。オースチン博士着任から一年後という「早業」で施行規則等が見直されました。本来ならば、まず狩猟法を改正したうえで施行規則を改正すべき(国会事案)なのですが、ここでは、先ず施行規則を改正し、更に農林省告示で補うという「荒業」で対処してしまいました(大日本猟友会 1947a)。ともあれ、主な改正事項は次の通りです(林野庁 1960、林野庁 1969)。

第1 狩猟鳥獣の見直し

狩猟鳥は従前の47種から21種(表‐1)へと半減しました。なかでも、カスミ網猟の主な捕獲対象であったツグミ、アトリ、カシラダカ等が除外されました。また、狩猟獣は、カモシカ、カワウソ、ヤマネコ、サル及びメスジカを除外した種となりました。

第2 狩猟期間の短縮

狩猟鳥は、「10月15日から翌4月15日」の6か月間から「11月1日から翌1月31日」の3か月間へと短縮されました。なお、北海道は、「9月15日から翌4月15日」の7か月間から「10月1日から翌1月31日」の4か月間へと短縮されました。(狩猟獣は省略)

第3 法定猟具からカスミ網などが除かれました。

第4 捕獲数量の制限

併せて同時に、以下の新たな農林省告示も出されました。狩猟免許者1人1日の捕獲数量の制限が課せられることとなりました。狩猟鳥21種のうちカラス類・スズメ・ニュウナイスズメの3種を除く「18種」に制限がかけられています(表‐2)。なお、狩猟獣には制限がありません。

表‐1 GHQ勧告後の狩猟法・施行規則等改正にともなう「狩猟鳥獣」削減

改正前
勅令第381号
大正8年8月15日
アイサ、アトリ、アホウドリ、アオサギ、アオジ、イカル、イスカ、ウ、ウソ、ウズラ、カケス(ルリカケスを除く)、カシラダカ、カワラヒワ、カモ、カラス(ホシガラスを除く)、ガン、キジ、クイナ、クマタカ、クロジ、ケリ、ゴイサギ、シギ、シメ、シロハラ、ダイゼン、チドリ、ツグミ(トラツグミ及びクロツグミを除く)、ニュウナイスズメ、ノジコ、ハクチョウ、ハト、ハヤブサ、バン、ヒヨドリ、ヒワ、スズメ、ホオジロ、マシコ、マミチャジナイ、ミサゴ、ミヤマホオジロ、ムナグロ、ヤマドリ、ワシ、エゾヤマドリ、オシドリ、獣類各種(但し、アマミノクロウサギを除く)
改正後
農林省令第72号
昭和22年9月9日
キジ、ヤマドリ、ウズラ、エゾヤマドリ、コジュケイ、カモ類(オシドリを除く)、アイサ類、ガン類の内ヒシクイ及マガン、クイナ類の内クイナ及ヒクイナ、バン類の内バン及オオバン、シギ類の内タシギ、ジシギ、ヤマシギ及タマシギ、ハト類の内キジバト、カラス類(ホシガラスを除く)、スズメ、ニュウナイスズメ、獣類各種(カモシカ、カワウソ、ヤマネコ、サル及メスジカを除く)

 

表‐2 捕獲数量の制限 農林省告示第133号(昭和22年9月9日)

狩猟鳥獣の名称 捕獲数量(狩猟免許者1人1日につき)
キジ及びヤマドリ 合計して3羽以内
コジュケイ 5羽以内
ウズラ 5羽以内
エゾヤマドリ 3羽以内
キジバト 10羽以内
バン、オオバン、クイナ及びヒクイナ 合計して5羽以内
タシギ、ジシギ、ヤマシギ及びタマシギ 合計して10羽以内
ヒシクイ及びマガン 合計して2羽以内
カモ類 合計して10羽以内(但し、網猟をする者にあっては狩猟期間を通じて900羽以内とする。)

 

「狩猟法・施行規則等の改正」に際しては、GHQの勧告を真摯にうけとめての改正であったと感じています。勧告を受け、「狩猟鳥獣の見直し」では狩猟鳥のみならず狩猟獣についても対処しています。「法定猟具からカスミ網等の除外」は、勧告(甲種の免状をやめること)を真摯に受け止めての決断と思われます。また、「捕獲数量の制限」は、勧告では『1猟期中に何羽捕る…』というものでしたが、本改正では『1日の捕獲数量』となっており、水面下での激しい攻防があったものと推察されます。

ともあれ、1946(昭和21)年に改正された施行規則等は、現在にも引き継がれている重い課題であった、と私は考えております。

GHQ・オースチン博士は、上記の狩猟法等の改正に関する(記者?)発表に際し、「今回の新規則により最も利益をうけるのは、日本の農家であろう。昆虫を食餌とする鳥が何百万羽も殺戮されたので、害虫による作物の被害は夥しいものがあったのである(大日本猟友会 1947b)。」と述べていました。


引用文献


2020年9月12日公開