赤坂猛「野生動物問題よもやまばなし」
  • あかさか・たけし
  • 一般社団法人エゾシカ協会代表理事。2008年度より石狩圏に生息するエゾシカの生息実態調査等に着手。一方、地域に埋もれ行くタンチョウなど「野生動物と人との関係史」の発掘調査にも取り組んでいる。調査手法はひたすら「歩く・観る・聴く」そして「編む」、とシンプル。

第13回 「狩猟鳥獣と社会」の行方(その1)

鳥獣保護管理法に基づき環境省が定めた「基本指針(2018年10月)」(注1)では、狩猟獣のアライグマ等は「特に管理を強化すべき外来鳥獣」と明記していますが、それらの狩猟数はこの20年あまり1000頭前後で推移しています(第12回コラム)。アライグマ等の外来種の生息数を減少させてゆく「管理の強化」とは、真逆の状態が20年あまり「放置」され続けています。狩猟鳥獣の「管理等」を考えてゆきたいと思います。

狩猟鳥獣の「管理」

・狩猟獣(外来種)

「狩猟鳥獣」とは、その肉又は毛皮を利用する目的、管理をする目的等で捕獲対象となる鳥獣であって環境省令で定めるものをいう、と鳥獣保護管理法にあります。「管理をする目的」の「管理」とは、その生息数を適正な水準に減少させ又はその生息地を適正な範囲に縮小させることです(第12回コラム)。

さて、狩猟獣であるアライグマやハクビシン等の外来種については、「基本指針」の「第4-1-(2)狩猟鳥獣 イ 保護及び管理の考え方」のなかで「特に管理を強化すべき外来鳥獣である狩猟鳥獣については、その持続的な利用の観点での保護の取り組みは行わない。」とあります(第12回コラム)。「特に管理を強化すべき外来獣」の捕獲数は、この20年あまり1000頭前後で推移していることは冒頭でも触れたところです(図-1)。外来種の「管理の強化」は、この20年あまり、もっぱら有害駆除によって対処されてきています(図-2)。

図1

図-1 タイワンリス等外来種の狩猟による捕獲数の推移(1996~2016年).

図2

図-2 外来種の狩猟及び有害駆除による捕獲数の推移(1996~2016年).

実は、外来種の管理について、「基本指針」の「第4-1-(3)外来鳥獣 イ.管理の考え方」において、「農林水産業又は生態系等に係る被害を及ぼす外来鳥獣については、積極的な狩猟及び被害の防止の目的での捕獲を推進して、その被害の防止を図る。」とあります。「基本指針」において、外来鳥獣についても「積極的な狩猟…を推進して、その被害の防止を図る」と明記していますが、狩猟の実態は極めて「消極的」なものです。

狩猟獣である外来種の管理は、「狩猟」には期待できないことは明白です。

・狩猟獣(毛皮獣)

狩猟獣であるノウサギやリス類、イタチ、タヌキ等の所謂「毛皮獣」の捕獲数が減少し続けてきていることは、前回も触れました。直近20年あまりの毛皮獣の狩猟の捕獲数の推移(図-3)及び有害駆除等による捕獲数の推移(図-4)をご覧ください。狩猟の捕獲数が一貫して減少し続けるのに対し、有害駆除の捕獲数は増え続けています。

狩猟による毛皮獣への捕獲圧の長期間におよぶ減衰は、毛皮獣の生息数の増加や生息域の広がり等にプラスに働いてきていると推測されます。毛皮獣の有害駆除数の増加傾向が、それを示唆しているように思われます。

図3

図-3 毛皮獣の狩猟による捕獲数の推移(1996~2016年).

図4

図-4 毛皮獣の狩猟及び有害駆除による捕獲数の推移(1996~2016年).

毛皮獣の毛皮は、かつて「高値」で買われてゆきました。私が勤務した酪農学園大学・生物多様性保全研究室の卒業論文から紹介しましょう。

「1955年頃、K氏の兄は黄色いテンを捕獲し1000円で毛皮商に売れたという。そのお金で野球道具一式を購入。その当時、小学校職員の初任給は7800円。」(細谷 2015)とは、道東の狩猟者K氏からの聞き書きです。テンの捕獲場所は岩手県の沢内村で、売値の1000円は現在に換算すると約3万2000円です。野球道具一式の購入は容易であったと思われます。

また、「…1970年代後半から野生鳥獣資源の需要が一気に低下する。1990年代には毛皮、剥製等の売買取引が無くなり、…」(細谷 2015)とは、同じく道東の狩猟者A氏からの聞き書きです。野生鳥獣資源の流通は、1970年代後半から低下しはじめ、1990年代には「毛皮、剥製等」の売買が終焉を迎えた、との聞き書きには合点がゆきます。狩猟鳥獣の捕獲数は、1970年代後半から一気に減少してゆくことは再三触れてきました(図‐5)。60歳代半ばのA氏は、永年、ヒグマやエゾシカ、キツネ等の多くの猟果を商品化されてきた方です。

今後、毛皮獣への「狩猟(者)」離れは、更に進行してゆくものと思われます。そして、毛皮獣による里山等での農業等被害問題や、更には市街地での家屋等への侵入・営巣等に伴う生活被害問題等が顕在化してゆく懸念を感じています(注2)。

毛皮獣の適切な「管理」も、外来種と同様に大きな社会問題となってゆくように感じられます……。

図5

図-5 狩猟鳥獣の捕獲数の推移(1928年~2016年).

ドイツの「専門的狩猟者」による管理

「野生動物管理のための狩猟学」(梶他 2013)の第3章(海外の狩猟と野生動物管理の事例)に、ドイツの狩猟者制度に関する節(M.J.Schaller著)があり、狩猟者と「管理」の関係について以下のように記されています。

ドイツでは、「有蹄類の生息数が過剰であるため、今日では森林の持続性が危険にさらされるほど深刻な被害がもたらされている」そうです。そのため、「狩猟によって森林内の有蹄類の生息数を管理する必要があると考えられている」とあります。「森林を維持するためには、野生動物の個体群を管理し、森林を自然に再生・更新させるほうがはるかに低コストなのである。そのために、個体群管理を担う狩猟者が必要ということである」とは、ドイツ南部のバイエルン州の方針です。

次に、著者のSchaller博士は、個体群管理の担い手について、「一般的に狩猟者の人口密度が高ければ、狩猟対象となる有蹄類の管理がより適切に実施可能であるという仮説がある。それは本当だろうか?…つまり仮設とは違い、狩猟者の数と狩猟対象動物の管理の成功には、必ずしも相関関係は認められないのである」と考察しています。

ドイツには、管理の担い手となる「専門的狩猟者」がいます。「専門的狩猟者」には、「狩猟森林官 Hunting Forester」と「職業狩猟者 Professional Hunter」の2種類があります。「狩猟森林官とは狩猟も実施する森林官を意味し、約4000人いる。狩猟に関する教育は、大学教育課程の一環になっており、森林官になるためには狩猟免許を取得する必要があるため、ドイツの森林官はほぼすべてが狩猟者でもある」そうです。

一方、「職業狩猟者は、3年間の専門的な訓練と教育を要する。…現在、ドイツには約1000人の職業狩猟者が存在し、ほとんどが山岳地帯において狩猟を行っている」とあります。職業狩猟者は、州有林等の森林所有者からの委託を受けて狩猟森林官らとともにアカシカやシャモアの管理を担っている様子が綴られています。ドイツでは、職業狩猟者等による有蹄類の個体群管理が円滑に機能してきている様子が伺われます。

実は、私は、ドイツの狩猟制度等について1994年11月にミュンヘン大学・動物学教室のシュレイダー教授より説明を受けていたので、以下に補足します(注3)。まず、「職業狩猟者 Professional Hunter」は、1990年の法律改正により創設されたことです。ハンター制度を見直し、従前のRecreational Hunterに加え、新たにProfessional Hunterを設けました。また、その法改正に至った理由は、旧法のハンター制度では、野生鳥獣をコントロール(捕獲)は出来てもマネジメント(管理)は出来ないため、との説明がありました。

ドイツのProfessional Hunter制度には、30年余の個体群管理の実践と蓄積がある、ということです。

新たな「専門的捕獲技術者」制度の創設を!

狩猟獣である外来種の適切な「管理」に加えて、毛皮獣の管理についても社会問題となってゆくものと思われます。これらに適切に対応してゆくためには、狩猟(者)とは別の新たな「管理を担う捕獲者」が必要であることは、先のシュレイダー教授の説明からも明白です。狩猟獣である外来種の直近20年あまりの捕獲数の推移(図-1)が、それを雄弁に語っています。

エゾシカ協会副会長の伊吾田宏正さんは、先のドイツの制度等を踏まえて、「わが国でも、一般狩猟者と連携して、地域の野生動物管理の核となって個体群管理にあたる専門的捕獲技術者の育成と配置が急務である」とし、「そのためには、まず、法改正も視野に入れた抜本的な体制整備の改革が必須である」と提示しています(伊吾田 2013)。

エゾシカ協会・シカ捕獲認証委員会の評価委員で岐阜大学教授の鈴木正嗣さんは、「狩猟者の減少と高齢化は急激に進んでおり、将来のわが国における野生動物管理の現場では、職務(本務)として捕獲に従事する者が求められることは疑いない。」と断じています(鈴木 2013)。私も野生動物の管理をボランティアに依存するような現行の仕組みは限界に達してきており、資格を有した職務(本務)としての捕獲従事者が必須であると考えます。鳥獣保護管理法を改正し、個体群管理を担う「専門的捕獲技術者」の育成と配置、資格制度等の創設にむけて動き出していただきたいと考えます。

更に、伊吾田さんは「専門的捕獲技術者には、表のようなきわめて総合的な能力が求められる」とし、「大学レベル(またはそれと同等)の専門教育を受けることが望ましい」と考えられています。そして、将来的にはその養成機関として「ハンティングスクール」を各都道府県レベル(または、各道州制レベル)での設置を求めています(伊吾田 2013)。

表 専門的捕獲技術者に求められる能力(伊吾田 2013)

専門知識 野生生物の生物学・野生動物管理・食肉衛生・法令
専門技術 捕獲・解体・銃器・わな・麻酔銃・被害防除技術・管理計画作成
組織化能力 利害関係者との協働・集団での調査や捕獲の遂行

実は、大日本猟友会が2010年に設けた「狩猟と環境を考える円卓会議」の『提言書』(2011)では、狩猟者の将来方向について「…新しい概念の捕獲技術者の確保・育成も重要である。」とし、その捕獲技術者について「…科学的に問題を解決するのに必要な専門的知識と現場の技術を兼ね備えた者の必要性が高まっている。現在の狩猟者が新たな捕獲技術者へと移行していく場合も考えられる。」と記しています。『提言書』の「捕獲技術者」は『専門的知識と現場の技術を兼ね備えた者』としており、先の「専門的捕獲技術者」の資質等と同じものを目指しているように思われます。

環境省では、現在、2014年に改正された「鳥獣保護管理法」の施行状況等を精査し新たな課題等の検討作業を進めているとお聞きします。

狩猟鳥獣、なかでも狩猟獣である外来種の「管理」は破綻していますし、毛皮獣の「管理」も同様と思われます。これらの個体群管理も担える「専門的捕獲技術者」の育成と配置、資格制度等について、次の「鳥獣保護管理法」の改正のなかで実現していただきたいと考えます。法改正による「抜本的な体制整備」をすることは、環境省自らが定めた「基本指針(2018年10月)」を実現させるためにも必須のことではないでしょうか。


注1 「基本指針」は、「鳥獣の保護及び管理を図るための事業を実施するための基本的な指針」の略称で、環境省が2016年10月に定めたものです。「基本指針」には、国及び都道府県が実施する鳥獣保護管理事業の基本的な事項などを定めてあり、都道府県知事はこの「基本指針」に即して「鳥獣保護管理事業計画」を定めることとされています。なお、基本指針等は、鳥獣保護管理法(第2章 基本指針等)に明記されています。

注2 「市街地での家屋等への侵入・営巣等に伴う生活被害問題等が大きく顕在化してゆく懸念」については、以下のテレビ番組より得たものです。
  • ・「ザ撃退!第5弾 イノシシ&迷惑生物捕獲大作戦」(2020.5.1)BS-TBS.
  • ・「ダーウィンが来た!東京の生きものを大調査」(2020.6.14)NHK.
  • ・「スペシャル『ワイルドライフ東京』」(2020.7.6)BS-NHK.

注3 ミュンヘン大学でシュレイダー教授にお会いしたのは、「北海道職員外国派遣研修」の一環でした。私の研修テーマは「先進国における野生生物保護管理システムについて」で、北米及び欧州の8カ国・25機関等にて研修等を受けました。その時の「研修報告書」から引用しました。


引用文献


2020年12月8日公開