一般社団法人エゾシカ協会

美味しくいただくためのハンティング(4)


玉木康雄 
美味しくいただくためのハンティング

玉木康雄さん

創業昭和八年
日本茶専門店
玉木商店玉翠園
代表取締役

日本茶インストラクター協会理事
茶抽出理論・健康科学専任講師


玉木康雄

忍び猟のすすめ(4)

 皆さんこんにちは。久しぶりの更新をさせていただきますが、実はこのエッセイを、たくさんの方が見てくださっていることを意外なところから知り、とてもうれしく思っています。

 前にご紹介したように、私の本業は日本茶の専門店で、店頭でスイーツなども提供している関係で、幅広い年齢層の方がご来店されます。

 お客様と接する時間が最も私の充実したひと時なのですが、最近驚くのは、パフェを食べているお客様から「実は、先日狩猟免許を取って、今度鹿猟に行くのですが、美味しく食べるには……」とか「実家の畑が荒らされて鹿に困っているのですが、仕留めて、おいしく食べられるなら猟をしてみようか……」などとご相談される機会が増えていることです。

玉木康雄さん「美味しくいただくためのハンティング」(4)

プロのメンツにかけて湯はこぼしていませんが!実際にあった一コマです(笑)お茶屋の私にこの話題を振ってこられるということは、そう、協会HPをご覧になってご来店くださった方々というわけです。(感謝!)

 

 猟をする動機は人それぞれですが、「美味しくいただく!」このキーワードでなら、私は山ほどの失敗談とともに、可能な限りのアドバイスができると思っています。美味しい狩猟に興味のある方は、ご来店の際はお気軽にお声をかけてください!

 このエッセイも、そうした情報の提供の場になればと、これからも時間を見つけては、つづらせていただきますのでよろしくお願いします。

 さて、今回お話しさせていただくのは、このように、これからハンティングを始めようと思っている方々から頂く質問の中で、最も多いものです。

 題して「あしなし、いぬなし、じかんなし」の話です。

 まず、「あしなし」とは猟専用の車が無いのだけれど、どうしたらよいのかというご質問です。

 道なき道を行くタフなオフロードカーが、猟には欠かせないと誰しも思うかもしれません。が、実は私が猟に使っている車は、なんと一般の小型乗用車です。

 このことを話すと多くの方が唖然とされます(笑)。猟を始めたころは、私も諸先輩方が使っておられる本格的四駆が必須と思っておりました。ところが、私の会社には立体駐車場しかなく、車高が1550mmを超える車は使えないという事情がありました(涙)。しかたなく、とりあえずの気持ちで、一般の乗用車で猟を初めて以来、結局20年以上、このスタイルが続いています。だからこそ、たどり着くことができた「忍び猟」であるとも言えます。

玉木康雄さん「美味しくいただくためのハンティング」(4)

猟場候補地の選び方として、たとえば、赤い車の駐車位置からは北・南・東に林道が走っており「流し猟」のハンターが行き来する可能性があります。その点、西側なら交差する林道もなく、地形としても「忍び猟」に最適です。

 

 昨今の道路整備は、十分以上に行き届いており、林道であってもかなり走りやすく整備されています。猟場を決める際に、自分の車でまずは無理なく安全に行けるところまで行ってみてください。これ以上行くと少しでもスタックの危険があるなと思ったら支障のないところに車を止め車外に出ると、そこはすでに忍び猟に最適のフィールドであることがほとんどです。

 ただし、注意しなければならないことは、自分の車が行けなくとも、走破性の高い車両がその先に進めるということです。そうしたエリアは「流し猟」といって、林道を車でゆっくり走行しながら鹿を探すハンターの猟場となっていることが多いのです。2万5000分の1地形図を見て、先まで続く林道と、自分がこれから分け入る範囲が、交わらないエリアをチェックしてからフィールドを選ぶことが安全上も、マナーとしても大変重要です。

 車両に掲示する義務のある入林許可書を車外から見えるように車に残して行くことはもちろんです。

玉木康雄さん「美味しくいただくためのハンティング」(4) 次に「いぬなし」ですが、もし私に猟犬がいたら、さらに豊かなハンティングライフであったと思うほど、一つの憧れではあります。

 しかし、我が家には「猫のミーちゃん」がおり、彼女が受け入れを許さない猟犬は、今後も私のハンティングライフには登場しないでしょう。

 とはいうものの、エゾシカ猟だけに関して言えば「猟犬がいればとれたのに」といったシチュエーションはほとんどありません。むしろ、猟犬に及ばないまでも自分の五感を研ぎ澄まし、これを頼りに一頭を仕留めることこそが、「忍び猟」の楽しさと考えれば、「いぬなし」で、実際上は全く問題がありません。

 でも、猟犬が私にとって今でも憧れの対象であるのは、孤高を気取るソロハンターの私も、いよいよ初老に差し掛かったせいなのかもしれません。

 最後に「じかんなし」です。

 泊りがけで遠方に猟に行き、仕留めた話をよく聞きます。長期の休暇がないと「忍び猟」は難しいのでしょうか。

 自営業の私はよほどのタイミングが整わないと連休は望めなく、日帰りの猟がほとんどです。幸いなことに大都市札幌中心部からでさえ、東西南北どちらに走っても2時間走れば、猟場には困りません。私は土曜も仕事が夕方まであるので、猟具などは前もって用意し、車に積み込むだけにしておき、体力温存のために早めに就寝します。翌早朝出発して日曜日の日の出と同時に入山といったリズムで行動しています。これで十分余裕を持った狩猟ができます。

 ある日の行程を例にあげれば、6時30分に現地に到着、日の出と同時の同50分に入山してから直線距離にして3kmほど進み、14時を往路限界線として引き返し車に戻りました。最大で16時の日の入りまでが狩猟可能時間となりますが、深入りせずに、潔くあきらめることは単独「忍び猟」にとって重要です。

玉木康雄さん「美味しくいただくためのハンティング」(4) 仮にそれ以上進んで仕留めたとすると解体、運び出しまで合わせると、16時は確実に超えてしまいます。もちろん日没後の発砲さえしなければ違法ではありませんが、日の暮れた後に銃と獲物を持ってウロウロするのは気持ちのいいものではありません。何より、限界まで粘って疲れ果てての帰りの運転は大変危険です!

 「美味しくいただく」ためには、無事に帰らなければなりません。翌日の仕事にも支障が出ない範囲で余裕をもって楽しむのがおすすめです。

 見事に仕留めた時は、「美味しそうなのが一頭とれたよ。帰ったらシチューにするから野菜だけ用意しておいてね」と家に電話し、夕陽を見ながら帰宅できるような時間配分が理想です。

「忍び猟」は自分の身体能力と相談しながら、無理せず、自然の中で楽しませてもらう気持ちで計画することが大切です。

 鹿は捕れなくとも、紅葉狩りだけは確実に楽しめますから。

 「あしなし、いぬなし、じかんなし」でも十分忍び猟を楽しむことはできます。

 ただし、帰るまでに野菜をカットしておいてくれる「妻あるいは夫、恋人、友人その他」は、いてくれたほうが、とても、とても幸せではあります。

平成26年4月30日

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