伊藤英人の狩猟本の世界

177.『殺生と往生のあいだ』苅米一志著、吉川弘文館、2015年

177.『殺生と往生のあいだ』苅米一志著、吉川弘文館、2015年

殺生の罪業観を古文書からみていくという稀有な本。殺生を生業としている狩猟者、漁業者、武士は、古代・中世日本においてどういう位置づけにあったのか。

狩猟・漁業者は、食料調達や贄の献上という不可欠な役割を担う。一方、国家権力は仏教をベースにした統制を図るため、殺生禁断を説き、罰則を設ける。それでも寺院は狩猟・漁業者にも布教してお布施をもらわなければならない……。

誰もが食という殺生をしているので、殺生禁断は論理的に誤りである。思いっきり矛盾したなかで、殺生禁断政策は非常にあいまいでゆるゆるな、ときにこっけいなやりかたで、生業に影響のないよう運用されてきた。「魚類を神に献上すれば、殺生の罪は神が引き受ける」といったイイワケレベルの対応がかえって人間味を感じさせる。ただ、一部の狩猟者に罪悪感が存在していたことは確かなようである。罪悪感やその由来に興味ある方には必見。

殺生禁断をはじめさまざまなお触れが出されたが、内容は無断捕獲の禁止や猟(漁)期厳守などであり、捕獲自体の否定や禁止をしておらず、マナーを守ってやりましょうということである。現在の鳥獣保護管理法と何ら変わらない。