伊藤英人の狩猟本の世界

181.『ヒトの心はどう進化したのか——狩猟採集生活が生んだもの』鈴木光太郎著、筑摩書房、2013年


181.『ヒトの心はどう進化したのか——狩猟採集生活が生んだもの』鈴木光太郎著、筑摩書房、2013年

タイトルの印象よりも狩猟色がかなり強い。ヒトの進化では狩猟採集時代が多くを占める(つまりほとんど狩猟採集ばかりしてきた)ため、そのとき培われたさまざまな形質が今に生きている、という話。全体を通して、ヒトと他の動物の違い、ヒトたるゆえんがわかってくる。そしてそのルーツは狩猟採集時代に見出せる。

第1部は人類学的に見た人間の特性。諸先輩方の長きにわたる狩猟採集によって、走る、投げる、調理する、しゃべるといった独自の能力がもたらされた。賢さもしかり。狩猟なしではもはや人間たりえなかった!?

第2部は動物やスポーツへの高い関心の理由。動物や自然への愛着は狩猟時代から受け継いできているものである。スポーツと遊びのルーツも狩猟にある。「私たちは、狩りで用いる身体能力やスキルに価値をおき、それらに秀でた者に感嘆するような性質を受け継いでいる。」(p.146)

第3部は「心の理論」が中心。相手(人、ペット、文学の登場人物など)のサインから感情や意思を推論する。つまり、心を読む。ヒトはこれができるから教育、言葉、嘘が成立し、ヒトらしくなった、とする説。