環境庁「鉛中毒からワシ類を守るために/銅弾規制のお願い」(平成12)より抜粋
エゾシカ猟では約3割の方が散弾銃を使用しています。
平成10年5月に北海道釧路支庁管内において有害鳥獣駆除で捕獲されたエゾシカの鉛スラグ弾の被弾状況を調査したところ、2例中2例とも銃弾は貫通せず、エゾシカの体内に残留していました。また、平成10年4月12日に死亡収容されたオオワシの胃の中からは、鉛スラグ弾の破片が検出されています。
このため、ライフル弾と同様に、散弾銃で使われるスラグ弾についても鉛弾から銅弾へ切り替えていく必要があります。銅は鉛より一般的に毒性が低いと言われていることから、新たな中毒が発生する可能性は少なく、加えて、銅スラグ弾は被弾した際、ほとんどが貫通しています。
したがって、銅スラグ弾がワシ類に飲み込まれるという機会は極めて低いものと考えられ、また、仮にワシ類に飲み込まれたとしても中毒症状を起こすことは少ないと考えられることから、散弾銃における銅スラグ弾の使用はワシ類の鉛中毒防止の観点から極めて有効なものであるといえます。
エゾシカ猟で使用されている散弾銃の弾には、サボットスラグ弾、ライフルドスラグ弾、散弾粒(6粒、9粒など)があり、鉛製のものを使用しないことが必要です。
今回は、純銅製スラグ弾として市販されているフェデラル社製のバーンズサボットスラグ弾と、現在、試作販売されている日邦工業株式会社製のRXPサボットスラグ弾の2種類について、その命中精度などについて検証しました。
スラグ弾の種類は?
フェデラル社製のバーンズサボットスラグ弾(左の2点)と、日邦工業株式会社製のRXPサボットスラグ弾(右) |
スラグ弾は、散弾銃で発射する一発の単体弾で、散弾銃でシカやクマなどの大型獣を捕獲しようとする際に使用します。
スラグ弾の弾頭には色々な形状のものがありますが、大別すると平筒銃身の散弾銃で撃つスラグ弾と、ハーフライフリング銃身の散弾銃で撃つスラグ弾の2つに分類することができます。
純銅製のフェデラル社製のバーンズサボットスラグ弾はハーフライフリング銃身の散弾銃で、同じく純銅製の日邦工業株式会社製のRXPサボットスラグ弾は平筒銃身の散弾銃で使用することができます。
なお、絞りのある銃身では、銃身の破裂等の事故が起きる恐れがあるので使用できません。
貫通力は?
純銅製スラグ弾の貫通力を鉛製のものと比較するため、安土に1枚の厚さ4cmの粘土を10枚密着させて並べて置き、約50mの距離からの貫通力を確認しました。
既成のスラグ弾を用いて、射手、銃等の条件を同じにして比較しました。
【結果】純銅製のサボットスラグ弾は鉛製のものに比べ、年度に対する貫通力はおよそ1.5倍になりました。バーンズサボットスラグ弾は、着弾時に弾頭の先端部が開く構造のため、進入口が大きくなりました。
実際の捕獲では?
純銅製サボットスラグ弾は鉛製のものに比べて貫通力が強いため、エゾシカの体はほとんど貫通すると考えられます。実際に使用した事例について確認するため、エゾシカの有害駆除の際に純銅製サボットスラグ弾を使用し、着弾状況と逃走距離について調査しました。
【結果】バーンズサボットスラグ弾、RXPサボットスラグ弾により、それぞれ5頭の捕獲をしました。バーンズサボットスラグ弾では3頭、RXPサボットスラグ弾では1頭が即倒しました。着弾箇所によっては、逃走距離は最小で5メートル、最大で200メートルとなり、急所に当たっている場合は、逃走距離も短いことが分かりました。
使用上の注意事項について
純銅製のスラグ弾は、鉛製のスラグ弾とほぼ同様に使用することが可能ですが、鉛弾と比べて材質が硬いため貫通力が強いなど、特性がやや異なるところがあります。もう一度基本的な事項を再確認しましょう。
○ 練習を行いましょう
捕獲効率の良い狩猟を行うためには、普段からの練習が不可欠です。射撃場で十分練習を行い、技能の向上に努めましょう。
○ 日立つ服装をしましょう
林の中や、遠くからでも見分けのできる服装をしましょう。
○ 獲物の後ろに安土があることを確認しましょう
撃つときに必ず矢先の安全を確認しましょう。銅弾は鉛弾と比べて力が強いので、必ず獲物の背後に山腹などの安土があることや跳弾による事故が起きないように注意しましょう。
○ 確実な距離での発砲を心がけましょう
着弾部位によっては獲物が半矢になる可能性が高くなります。頸部部などの急所に当たれば、逃走距離も短く、獲物を容易に回収することができます。確実に急所を狙うことができる状況で発砲を行いましょう。
○ 銃の手入れをこまめにしましょう
安全な猟をするために、銃の使用前、使用後には必ず銃身の掃除や点検を行うように心がけましょう。
○ 銃砲店に相談しましょう
スラグ弾は使用できる銃に制約がありますので、購入にあたっては自分の散弾銃で使用できる弾であることを銃砲店に確認するなどして、正しく安全に使用しましょう。