エゾシカ有効活用で忘れてならないのが皮革利用。エゾシカ革にはどんな魅力があるのでしょう? 回答者は元北海道大学大学院農学研究科助教授の竹之内一昭さんです。
Q1 毛皮と皮革の違いは何ですか?
動物から剥いだままものを「皮」、毛が付いたままで鞣(なめ)したものを「毛皮」、脱毛してから鞣したものを「革」または「皮革」と称しています。脱毛処理は、一般的には硫化ソーダ(硫化ナトリウム)を少量加えた飽和石灰液(一部溶けずに残っている状態)に、皮を4~5日間浸漬して行ないます(撹拌すれば時間を短縮できます)。
Q2 革なめしって、何のことですか?
生の皮はそのままでは腐敗しますが、薬剤で鞣すことにより不可逆的に変化して腐敗しなくなり、生活用品として利用できるもの、すなわち「革」や「毛皮」になります。鞣し剤としては、クロム、植物タンニン、合成タンニン、ホルマリン、油などが使用されます。現在は、扱いやすいクロムが主流です。クロムが使用され始めた120年ほど前までは、植物タンニンが主流でした。これらの薬剤が皮のタンパク質であるコラーゲンと化学的結合をして、コラーゲンを安定化させるのです
Q3 シカの革の特徴は?
シカ革は、牛革などに比べると、柔軟で丈夫なのが特徴で、エゾシカ革も同様です。これは、皮を構成する線維と線維の間に空隙が多いことが理由です。鹿皮は、現在ではホルマリンや魚油による鞣しが主流ですが、数十年くらい前までは、牛などの脳漿(のうしょう)で処理し、表面を煙で燻(いぶ)して鞣していました。
Q4 シカ革にはどんな用途がありますか?
柔軟性や吸水性を生かして、レンズや貴金属の汚れ落とし、紐類、袋物(手袋や財布など)、剣道具などに使われています。山梨県に伝わる「印伝革(いんでんかく)」は、日本の伝統的な革であり、銀面(皮の表面)を除去したシカ革を漆仕上げしたものです。日本ではシカ革は、古くから甲冑の染め韋(画韋)や紐類、馬具や武具の紐類にも使用されてきました。
Q5 天然皮革の利用は野生動物を絶滅させませんか?
天然皮革は伸び縮み自在で、衣類や靴などを作ると、体に馴染んで着心地や履き心地、手触りが良いものです。美的感あるいは高級感があり、使い込むほどに愛着や満足度が増してきます。吸湿性、発汗性、強度、保温性および柔軟性に富んでいて、目的に応じてその機能を利用することが可能です。
野生動物は大昔から狩猟の対象であり、食用や毛皮、革用に供されてきました。自然界の繁殖を損ねない程度の適度な捕獲であれば、天然資源として有効利用が永続的に可能でしょう。もちろん、絶滅を防ぐために生息数を把握しておくことが常に必要です。
竹之内一昭 元北海道大学