大きなアドバンテージ
全国を見渡すと、「シカビジネス」はすでに各地で展開されています。筆頭は養鹿業ですが、必ずしも上手くいっていません。収益を上げるにはコスト削減を徹底しなければなりませんが、反面、消費者の環境問題や食の安全への関心が高まるにつれ、外来種問題(遺伝子汚染)や感染症問題といった諸課題をクリアする対策が求められ、コスト増につながっています。
この点、野生ジカが“過剰に”生息している北海道には有利な条件にあります。外来シカを持ち込まずに済みますし、「家畜化」が蔓延の引き金になりがちな感染症の心配もいりません。仮に柵内に入れる場合も、在来ジカを短期間だけ粗放的に飼育する方法なら、利点はほとんど失われません。衛生検査も楽に行なえます。一般に養鹿されるシカは「特用家畜」と位置づけられますが、北海道ではシカを家畜の延長ではなく、むしろ「自然資源」「林産物」と捉えるべきです。道産鹿肉を畜肉と差別化すれば価値は上がります。北海道シカビジネスの大きな原動力になります。
シカの魅力をアピールするには
適切な保護管理計画に基づいて捕獲・提供されるエゾシカ肉の魅力は、現代社会のニーズに適合しています。食味・安全性・栄養価などに優れているうえ、“過剰な”シカを食べることは生物多様性の保全にもつながるからです。こうした面を消費者に理解してもらうにはどうすればいいでしょう?
製品の安全性確保は最重要課題です。(1)野生個体のサーベイランスで常に安全性をチェックし、(2)自然あるいは自然に近い環境と餌で成育した個体を提供する、といった安全性の裏づけが必要です。
「殺すのはかわいそう」といった拒否反応を和らげるのに、(3)個体群の抑制が生物多様性の保全に貢献することを説明すべきです。そのためには、(4)外来種問題への取り組みを始め、行政や経営者は生物多様性保全へのあらゆる配慮を怠ってはなりません。
そのうえで、より奥深い「鹿肉の味わい方」まで消費者に提供できたら満
点でしょう。 (5)畜肉の味とは異なる独自の「味わいと品質」をPRし、(6)野生と飼育・雌と雄・年齢ごとの「多様な味」を伝えるための発想が求められます。
道外ハンターを呼び込め
シカビジネスを持続するには、新しい収益源の開発も大切です。(7)観光産業・普及啓発・教育事業との連携は極めて重要です。こうした機会は野生獣肉への偏見をなくす「鹿肉イニシエーション(通過儀礼)」の場ともなり、市場拡大につながっていきます。
(8)自然教育のニーズは年々高まっています。西興部村では種々のセミナーを実施しているほか、都内の小学校の授業依頼を受けた経緯もあります。シカ保護管理は「自然資源の持続的利用」を教える格好のテーマです。
狩猟マーケットの拡大も狙い目です。道外ハンターの大半はエゾシカ猟を楽しむために来道します。(9)安全性や捕獲成功率を維持しつつ、技術レベルに応じた多様な猟場で適切なサービスを提供すれば、人気はいっそう高まるでしょう。また自治体は税収(狩猟税1人あたり16,500円)を期待できます。
こうしたフィールドはハンター教育の場としても機能します。保護管理の担い手と目されるハンターですが、高齢化と人口減少は著しい。(10)「質の高い狩猟者教育カリキュラム」が求められており、将来的には「狩猟学校」にまで発展する可能性もあります。
こうした方向性の将来を占う意味でも、西興部村の猟区は重要なモデルケースなのです。
すずき まさつぐ 社団法人エゾシカ協会理事
(c)Suzuki Masatsugu 2004
エゾシカ協会ニューズレター第17号(2004年10月20日発行)から転載
現代デザイン研究所編『切り絵歳時記』(ダヴィッド社刊)の収録作品を利用しています。