一般社団法人エゾシカ協会

宇野裕之さん「エゾシカを利用するヒグマ ~春の野山では事故予防を~」


 一昨年の4月、雪解けが進む阿寒湖畔でヒグマによって倒されたエゾシカを見る機会を得ました(写真)。その日の朝、シカを食べているクマを目撃した方が連絡をくれたので、現場に飛んでいきました。シカはオスの成獣、前の日まで元気に活動していたそうです。足跡から推測すると、川下からのぼってきたクマが、数本かたまったエゾマツの陰で待ち伏せしていたのではないかと考えられました。春先、山の中で餓死したシカの死体を食べた痕跡には、これまでも出会っていたのですが、元気な成獣をハンティングした現場は初めてでした。ちょっと衝撃的でした。

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 ヒグマの研究者が道東地域で捕獲されたクマの胃の内容物を調査したところ、シカの出現する割合が1980年代から1990年代に入って大きく増加したそうです(注)。この時期、道東地域ではシカの生息数は爆発的に増加しました。狩猟などの残し、半矢個体、餓死個体など様々な利用の機会に恵まれ、クマはシカを食べることを学習していったのだと考えられます。シカが明治期に激減する以前は、それが本来の食性だったかもしれませんが。

 話は少し変わりますが、昨年の3月上旬、白糠丘陵周辺をヘリコプターで飛んだ際、雪の上でヒグマを3例目撃しました(いずれも単独個体)。雪解けが例年と比べて特に早かったわけではないので、どうしてこんなに早く冬眠から覚めたのだろうと不思議に思いました。全くの推測ですが、シカという餌資源があるために、親子以外のヒグマの冬眠明けが早まっているのかもしれません。

 エゾシカ狩猟中にヒグマに襲われる事故が近年道東で起こっています。これから春にかけて山菜採りなど山に入る機会が多くなると思います。シカの残しなどにはクマが付いている可能性があるので要注意です。死体には不用意に近づかないこと、人間の存在を早目に知らせることなど、十分気をつけて春山の自然を楽しみたいものです。

(注)北海道環境科学研究センター(2000)ヒグマ・エゾシカ生息実態調査報告書Ⅳ.野生動物分布等実態調査(ヒグマ:1991~1998年度)

エゾシカ協会ニュースレター No.9(2002年2月1日発行)より