伊東昭二(エゾシカ協会会員、北海道上士幌町在住)
北海道がエゾシカ対策を発表して間もない2000年に、牛に「口蹄疫」という恐ろしい病気が隣町でも発生して、同じ偶蹄目のシカにも感染の恐れがあると騒がれた。
時を同じくしてワシ類などの鉛中毒死がマスコミをにぎわせた。さらに牛のBSE発生が確認され、アメリカを中心にシカにも同様の病気があると、追い打ちをかけてきた。
こうした背景からだろう、環境省は昨年、狩猟者に「猟獲した獲物を血の一滴まで持ち帰れ」という、ハンティングの現場を理解できていないとしか思えない提案しようとしてきた。こんな法律がまかり通れば、大半の良識あるハンターは狩猟を止めたであろう。
実際、行政の矛盾した態度とシカの残滓処理に経費がかさむことに嫌気がさしたせいか、足寄町や鹿追農協などはシカ解体事業を廃止した。「シカ肉離れ」が加速しているのだ。
だがこれは間違いだ。シカ肉には、その残滓を含め、大きな価値がある。
たとえば、衰弱した犬にシカの骨髄や生肉を与えると元気を回復することを、私は何度か経験している。
私の知り合いで、年間500頭ほどのシカを処理している人がいる。大量に出るくず肉や骨等の残滓を、犬の餌として希望者に無料で提供していた。
そんな中に漁師がいて、試しにシカの残滓をツブ籠漁の餌にしたところ、イカなどの餌の3倍近い漁があったという。
これなら厄介な残滓処理費用の負担も軽減でき、漁業者も高価な餌代が倹約できて、一石二鳥のうまい話だと思った。残滓のこうした利用法が普及すれば、捕獲したエゾシカの処分に窮することなく、有効利用に一段と弾みがつくのではなかろうか。
また、「エゾシカは他の家畜の残滓より格段に良質なダシが出る」と、ある食品会社の開発専門家は話していた。エゾシカのイメージ食品が誕生することは、エゾシカの有効利活用とエゾシカ対策に弾みがつくことと思う。
だが、残念ながら現行の食品衛生法等では、野生動物を加工販売するための適法がないので企業としては無理とのことである。野生動物のエゾシカなどの利活用の法整備を講じて、エゾシカがより無駄なく有効に利用できる隘路を開くことも、当協会の大きな役割ではないかと思うのである。
エゾシカ協会ニューズレター14号(2003年11月10日発行)より