一般社団法人エゾシカ協会

IWMCラウンドテーブル報告


第5回国際野生動物管理学術会議

第5回国際野生動物管理学術会議(IWMC)ラウンドテーブル報告

石沢裕/北原電牧(株)、エゾシカ協会会員

 この夏札幌で開催されたIWMCの1プログラムとして、ゾーニングによるワイルドライフマネジメント(主にシカ、イノシシ)等に関するラウンドテーブル(円卓会議)が開かれました。

 エゾシカ協会の近藤誠司会長が座長を務め、演者は森林総合研究所勤務でエゾシカ協会理事の松浦友紀子さん、山梨県総合農業技術センターの本田剛さん、イタリア・サッサーリ大学のマルコ・アポロニオ教授、ファームエイジ株式会社の小谷栄二社長、高田健次さん、サージミヤワキ株式会社の宮脇豊社長、そして筆者でした。後半には傍聴者も議論に加わり、テーブル上に置かれた、集落・里山・山地をイメージしたイラストに、思い思いにあるべき姿や課題等を書き込むという新しい試みがなされました。

 

 そもそもゾーニングという概念がきっちりと定義付けされているわけでもなく、議論が難しいことは最初から予想されていましたし、案の定、総論的にはまとまり切らなかった感は否めません。しかし、ゾーンによって保護管理の様態を変える手法については理解が深まったのではないでしょうか。

 各論的には、いくつかの有益な示唆がなされたのではないかと考えます。何点かご紹介したいと思います。

(1)学会の直前、静岡県内で電気柵(と称する違法な通電柵)に触れた5人が死傷するという痛ましい事故がありましたが、このラウンドテーブルでは、適法な電気柵ではそのような事故は絶対に起こりえないことが強調されました。

(2)電気柵は、昼夜を通して24 時間継続して通電すべきであること。シカもイノシシも本来は夜行性ではありません。無通電時の柵に触れた動物には、心理柵としての機能が働きません。

(3)イタリアでは防除柵が景観を壊さないように様々な規制があることが紹介されました。本州で付設されるイノシシ用溶接金網は景観を破壊していると考える筆者は、思わず膝を打ってしまいました。

(4)電気柵と合わせ、貧弱でも良いから物理的な障害物(樹脂ネットなど)を併用すると、電気柵の効果が確実なものになることが紹介されました(特にアライグマやハクビシンなど中型哺乳類)。

(5)農地用の防除柵を誘導路に見たててワナを仕掛ける手法の有効性、またバッファーゾーンや山地など農地以外で電気柵を活用して動物をワナに誘導する手法が紹介されました。知っている人には当然でも、世間的にあやふやなこれらの事柄について、国際学会で公的な立場の人や内外の研究者の前で確認できたのは意義深かったと思います。

 このほか、鹿野たか嶺さんによる新刊『エゾシカの被害と対策』の紹介や、松浦友紀子さんによる認証制度の話題提供などがあり、充実した国際会議でした。


一般社団法人エゾシカ協会ニュースレター第39号/2015年10月から)