エゾシカの有効活用を体験するユニークなエコツアー(主催・野生動物教育研究室WEL、協力・西興部村猟区管理協会、後援・エゾシカ協会)が2月13~15日、西興部村で開かれた。群れの観察からシカの解体・調理、さらに試食会まで、参加者たちは「シカづくし」の3日間を堪能した。
(報告・平田剛士)
第1日
「自然案内人のための野生動物講座」と銘打たれたこのツアーには、自然好きな男女7人が参加した。同村のホテル「森夢」に集合すると、さっそくシカウオッチングに出発だ。
ガイドを務めるのは西興部村猟区管理協会の大沢安広会長。同協会は北大と調査研究を実施中で、「学術捕獲」許可を得ている。チャンスがあれば参加者たちの前でシカを撃てるよう、大沢さんはライフルを肩にしている。
ワゴン車に乗り込んで村はずれへ。ほどなく林間に群れを発見したが、障害物があって発砲できない。射撃位置を探っているうちに群れは森の中に消えていった。「一発で倒さないとシカが苦しむ。その自信がなければおれは撃たないんだ」という大沢さんの言葉に参加者たちがうなづく。
スノーシューをはいてシカのいた場所へ。「食害」を受けたハルニレに触れながら、同協会の伊吾田宏正研究員に「こんなふうに樹皮をぐるりと剥かれたら、この木はもう立ち枯れるしかありません」と説明を受ける。参加者たちは細く縦に裂けるニレの皮を試しに噛んでみた。「わ、ほんのり甘い!」
第2日
西興部村養鹿研究会の肉処理施設にシカ解体を見学に向かう。到着すると、冷蔵庫の中に立派な雄ジカ1頭が逆さに吊されていた。
ゴムのエプロン姿の大沢さん、伊吾田さんが、ナイフを器用に使って皮を剥ぎはじめる。参加者の大半は、シカはもちろん家畜の解体も見たことがない。後肢から臀部、背中、胸へと皮が剥けていくのを目の当たりにし、「わあ」「おお」と小さな声は上がるが、次第に無口になっていく。
頭部、前肢が外され、背肉やバラ肉がきれいに切り取られた。最後に左右のモモを切断。作業がすっかり済むと、ようやくほっとした空気が流れた。
ずっしり重い肉塊をクルマに積み込み、今度はシカ料理に挑戦すべく「道の駅・花夢」へ。「花夢」の調理実習室では、同協会の井田宏之事務局長(エゾシカ協会事務局長)が下ごしらえを終えて待っていてくれた。作るのはシカ肉ソーセージだ。
シカ前脚肉をカットしてから豚バラ肉や調味料を加え、まずチョッパー、続いてカッターにかける。なめらかになったミンチをスタッファーを使って腸に詰める―と、文字で書くのは簡単だが、初体験の参加者たちは悪戦苦闘。苦労の末にフランクフルト風の豚腸詰め、ウィンナー風の羊腸詰め、鹿腸に詰めたホンモノ(?)のシカソーセージが大量に出来上がった。その晩の試食会が大いに盛り上がったことは言うまでもない。
第3日
最終日は「森夢」の視聴覚室で座学だ。伊吾田さんによるスライド発表「エゾシカ管理の現状と課題」の後、全員で「有効活用」のためのアイディアを出し合った。「健康食品としてイメージアップを」「シカに乗れたり、ソリを引かせたりしたら」「給食や病院食にシカ肉を」「シカ皮のクラフトをおみやげに」などと、楽しい提案が相次いだ。
ツアーを終えての感想を聞くと―「雑草を食べてあんなに美味しい肉を作ってくれるシカを地産地消につなげたい」(30代男性)、「胃袋をつかまれました」(20代女性)、「ぴょんぴょん動いているシカを解体して調理して、最後に食べるところまで体験して、人間が他のものを食べて生きているんだなあ、と実感した」(20代男性)。
WELの遠藤真澄さんは、「参加者のみなさんにシカがとても魅力ある動物だと実感してもらえたら、今度はそのことを次の人に伝える橋渡し役として活躍して欲しい」と話していた。
エゾシカ協会ニューズレター15号(2004年3月31日号)から転載