一般社団法人エゾシカ協会

パート4 回答者/近藤誠司


 今回の回答者は、北海道大学大学院農学研究科の近藤誠司教授(家畜生産学講座畜牧体系学分野)です。

狩猟を続けたら、シカの群れを滅ぼしてしまいませんか?

 科学的知識に裏付けられたしっかりとした狩猟管理が行なわれていれば、まずそんな問題はおこりません。現在までの動物の絶滅は、

(1)個体数が著しく減少しているにもかかわらずとり続けた
(2)個体数が多かったが、無制限にかつ無定見にとり続けた
(3)狩猟ではなく環境の悪化によってその動物が生存できなくなった

 などです。現在のエゾシカ猟では、このどれも当てはまりませんね。

ハンター人口が減っていると聞きましたが……

 はい、その通りです。昭和53(1978)年には全道でおよそ2万人の狩猟者登録をしたハンターがおりましたが、平成15(2003)年には8000人足らずと半分以下になっています。同じくらい重要な問題はハンターの老齢化です。50歳代は全くの若手で、60歳代、70歳代が中堅という現状です。シカは増え続ける一方で、ハンター人口は新たに登録する若手が少なく、老齢者が死亡して減っていくと考えると、ハンターの寿命の方がシカより短いのか! と思ってしまいます。

参考サイト/環境省「鳥獣関係統計」 狩猟者人口や狩猟捕獲数などのデータが公開されています。

エゾシカ猟にはどんな銃や弾を使うのですか?

 我が国で狩猟に使用する銃はライフル銃と散弾銃、空気銃の3種ですが、エゾシカ猟ではライフル銃と散弾銃が使われます。ライフル銃は銃身内部に螺旋(ライフルリング)が刻み込まれており、発射された弾丸は回転しながら飛んでいきます。一般に射程は100から300m、うまい射手ですと400~500m、超名人は1000mでも当てるそうです。一方、散弾銃は銃身内部が平滑になっていて、一般にはバラ弾を詰めたケースを使用しますが、エゾシカ猟には大きな一発弾(スラッグやサボット・スラッグ)を使用します。この時は弾丸自体が回転するような工夫がされているか、銃身内部の半分までライフリングしてある銃(ハーフライフル)を使用します。射程距離は100m程度までです。この範囲であればライフルに匹敵する性能があるといわれ、ディア・ガンとも呼ばれます。なおシカ猟では、ワシ類の鉛中毒予防から、銅弾などの「非鉛弾」使用が勧められております。

クリーンキルって何ですか?
クリーンキルだと、なぜ肉がおいしくなるのですか?

 動物福祉の立場から、できる限り苦痛の少ない方法でシカを射殺し、おいしい肉が回収できるように収穫しなければなりません。これをクリーンキルといいます。できる限り短時間に殺処分するためには、急所、すなわち中枢神経系(脳か脊髄)か循環器系(心臓や動脈)にダメージを与えることがいいのですが、同時に放血が速やかに行なわれ、ただし、消化器官などに傷をつけて消化管内容物で肉が汚染されることのないようにしなければなりません。その点でベストショットは頸椎を破壊すると同時に動脈を切断し体外に短時間で放血する頸部着弾ですが、これはかなり難しいショットになります。そこで、胸部にあたるように撃ち、心肺機能を破壊すると同時に胸腔内へ大部分の出血がおこるように撃つことが薦められています。こうして撃てばシカは短時間に絶命し、放血も十分行なわれ、かつ横隔膜以下の内臓(胃・腸管・肝臓など)を傷つけることなく、おいしい肉が収穫できます。

スポーツハンティングの魅力を教えてください

 基本的に「魚釣り」と同じだと思います。数万年続いた人類の「食べ物を獲る」という根源的欲求と、「獲物との知恵比べ」、「野外での活動」、これらを乗り越えて得られる「達成感」、もしくはそれへの「期待感」から成り立っているものでしょう。さらに付け加えれば、現在のエゾシカ猟は「環境の守り手」という側面もあろうかと思います。

参考サイト/環境省「鳥獣保護管理と狩猟」