一般社団法人エゾシカ協会

美味しくいただくためのハンティング(2)


玉木康雄 
美味しくいただくためのハンティング

玉木康雄さん

創業昭和八年
日本茶専門店
玉木商店玉翠園
代表取締役

日本茶インストラクター協会理事
茶抽出理論・健康科学専任講師


玉木康雄

忍び猟のすすめ(2)

 前回は、美味しく頂くためのハンティングの中で、忍び猟のメリットを紹介させていただきました。

 では実際にどのようにすれば、忍び猟はうまくいくのでしょうか。様々なポイントがあるとは思いますが、私が主に実践していることをいくつかご紹介しましょう。

地形を読み天候を味方にする

 山歩きに欠かせないのは地形図・コンパス・GPSですが、使いこなすには十分な経験が必要です。決まったルートを行く普通の登山でさえ、山の中の景色はどれも同じに見えることがあり、錯覚から方位を見失い遭難することもあるわけです。ハンターの場合は獲物との遭遇や追跡をする関係で、ルートの逸脱は当たり前ですから、自分の位置を常に把握できることが忍び猟を楽しむうえでの最低条件になります。

 さて地形図をよく見ると鹿が潜むことのできる針葉樹林、沢へのルート、寝床にしそうな窪地など、攻略のヒントがたくさんありますが、実際に獲物と出会うためのアプローチとなると、机上の作戦だけでうまくいくことはまずありません。

黒いお団子 当然、鹿たちもどちらから外敵が侵入するか心得ており、その方向に注意を向けて警戒していますから、想定ポイントにたどり着いたら黒いお団子(写真)だけが残され、もぬけの殻というのがよくあるパターンです。

 したがって、相手の裏をかいて、進みにくい地形を選んだり、迂回することで良い位置につくことが必要になりますが、この時に天候が大きく影響してきます。追い風ならばこちらの匂いも音もはるか先まで届きやすいですし、晴天時太陽を正面にしてしまうとスポットライトの中を歩くことになってしまいます。反対に、向かい風で太陽を背負った状態ならば相手からは発見しにくく、さらに小雪でも降っていればレースのカーテンが何枚も相手との間に掛かっている状態となり、極めて有利な接近が可能となります。これらを上手に利用することが忍び猟の成功には非常に重要なポイントになります。

動作上の注意(移動、止まる、挙銃)

 有利な地形、天候を利用できたとしても、ガサガサと笹薮をかき分け、ドスドスと足を踏み鳴らして移動しては忍びになりません。特に登りは体がきついので、どうしてもショートカットしたくなりますが、場合によっては迂回するのが良い場合もあります。例えばですが、下図のような場合、Xの地点に向かうのに直線で登って笹や枝に触れる音を立てるより、左からいく方が遠回りになっても余計な音を立てる可能性が低く済みます。

動作上の注意(移動、止まる、挙銃)

 また、移動中は周りの音が聞こえにくいので、適当な間隔で止まって周りの音に注意を払うことを忘れてはなりません。自分が動いているときには聞こえなかった相手の移動音等がよく聞き取れます。そして、お試しいただければわかりますが、止まる時は、右利きの人は左足を前にして止まる癖をつけると挙銃がとても楽で、すぐ射撃姿勢に持っていけます。(もちろん左利きならこの逆で)

射撃練習

 山に持っていく弾の数は万一を考えて多めに持っていきますが、実際に使うのは忍び猟の場合、一発がほとんどです。撃つ時に余裕があるのが忍び猟の良いところですが、気持ちに余裕があっても肝心の射撃に自信がないと必中の一発は撃てません。大切なのは自分の技術+銃の性能で、実際にどこまでの精度が出せるのか知り尽くしておくことです。

 これは射場で十分に弾数を撃って練習するほかありません。もちろんゼロイン等サイト合わせの基本は絶対に理解して、銃を自分の道具として完璧に信頼できる状態にしておきます。その上で、距離に応じた落差、風、気温、撃ち下しになるか撃ち上げか、精密射撃でないにしても、わずかな加減が成功の確立を高めることは間違いありません。

 さて、忍び猟のポイントを大まかに説明しましたが、最後に、じっくりと選んだ最良の一頭、どこにクロスゲージを合わせましょうか。「美味しくいただくため」ですから前足から後ろは論外とします。前足付け根のバイタルポイントからヘッドショットまで、状況によりますが、腕肉の半分(射出口側)を捨てる覚悟ならバイタルショットが最も確実です。ヘッドショットの場合は、よほど良い条件(間に細枝一本あっても逸れます)で、十分な自信がないと着弾のわずかな誤差が痛々しい手負いを生んでしまいます。最終的に命を奪うのにそんなこと考える必要が? という方もおられますが、私はかなりその辺にこだわってしまいます。もちろん苦しめれば肉質にも大きく影響してしまい、良いことは何一つありません。もっとも、射撃条件が良く正面上方から撃ち下しのような場合はヘッドショットも行いますし、状況に応じて私は使い分けています。

 引き金を絞った一瞬後、獲物に着弾のインパクトが、跳ね上がるスコープの片隅でとらえることができたなら、忍び猟は大成功です。

平成25年4月29日

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