伊藤英人の狩猟本の世界

87.『いしぶみの岩手』小島俊一著、熊谷印刷出版部、1992年

岩手のさまざまな石碑を集めた珍しい本。イノシシ、シカ、タヌキなどの野獣供養塔がある。大量に殺したときに塔を建てたくなるようだ。千頭塚の例は全国あちこちにある。

印象的なのは、厳しい自然が起こす壮絶な災害の記録である。馬も人も食う生き地獄だった飢饉(飢渇)、天然痘、そして大津波。これらの惨状は石碑に刻みつけられ、今に残る。精神科医の中井久夫は、「記憶はそもそも五官ではなしえない『眼の前にないものに対する警告』として誕生した可能性がある」という。碑から、記憶あるうちに石に刻みつけ、後世に残すという、カタい意思を感じる。教訓を受け継ぎたい。

東日本大震災の津波で流失した石碑もあるようだ。本という形であれ、ここに残って本当によかった。

87.『いしぶみの岩手』小島俊一著、熊谷印刷出版部、1992年