東京タンカー株式会社海務部編、成山堂書店、1989年

ワイヤーを含むロープ類の力学的特性。船舶向けの専門書。ワイヤーはエレベータ、吊り橋、積み下ろし等、人間社会で命にかかわる重責を担っており、扱いを間違えてはならない。
まず、油をつけないと摩擦が大きくなって寿命が減り、危険である。以前はくくりわなのワイヤーを山になじませるために、使用前に雨ざらしにする「油抜き」が行われていたが、これはワイヤーのパフォーマンスを低下させる。油臭くても獣はかかる(わなを掘り返されることはある)し、残念なことに獣は人工物(正確には不自然な違和感)に慣れてしまっている(ペットボトルや自動車を知らない獣がいるだろうか)。
ワイヤーは、筆記体の小文字「l(エル)」のようにクルッとしてから引っ張ると、キンクという「くの字」型のクセができてしまい、これが破断の原因となる。もし自分が捕縛されたときは、回転と引っ張りを繰り返せば脱出できるかもしれない。
獣は本書で学んだかのように、油をなめ取り、回転と引っ張りを繰り返し、脱出を試みる。100kg前後の獣が勢いをつけて引っ張るため、かなりの力が加わる、ワイヤーにとってとても厳しい状況での仕事となる。私のワイヤーは切れたことはないが、素線やストランドが切れていたことはある。みごとに脱出に成功したケースもあるが、たいていはワイヤーにクセがついたせいで余計に外しづらくなっている。輪にクセがついて、再使用の際に締まるのが遅くなるようであれば、締まる前に足を抜かれてしまうため、買い替えるほうがいい。
くくりわなにかかったために足をケガしたり欠損したりする事例があり、問題となっている。自分の経験では発生していないので、長期間の放置がなければこのようなことはほぼ起きないと考えている。まず、くくりわなには足の締め付け防止のためにストッパーがあり、使用が義務づけられている。これが機能すれば痛くないし、狙っていない小さい獣は自力で脱出できる。それに、かかった獣は常に暴れているわけではなく、戦闘に備える必要もあるためよく休んでいる。欠損事故の発生原因等についてはまだよくわかっておらず、わなを管理せず放置するマナーの悪い人間の仕業と思われるが、メーカー側のわな開発の余地もある。わな設置の際は見回り可能な個数と範囲に置き、定期的な管理を必ずしてほしい。しかし、個体数減少を目指す管理捕獲では大量にしかけることがあり、なかなか理想通りにいかないかもしれない。(2025年3月記)