つれ去るな じっとかくれた バンビーノ

生まれたばかりのエゾシカの子ジカは、母親とは少し離れた場所でじっと身をひそめています。これは、隠れ戦略(英語でhider)と言われ、捕食者に見つからないようにするための作戦です。子ジカは生まれて数時間もたてば歩けるようになりますが、数日間は4本の足がバラバラに動いている感じで、よたよたとした動きしかできません。そのためこの期間は、何かあっても走って逃げることはせず、ひたすら隠れて危険が去るのを待ちます。人が近づいても、持ち上げられてもじっとしているので、この時期は比較的簡単に子ジカを捕まえることができます。シカの出産時期は山菜取りの季節とも一致するため、山菜取りで山に入った人が隠れている子ジカをみつけ、親がいなくてかわいそう、と連れ帰ってしまうことがあります。でも、近くに必ず母親がいますので、拾わないでください。
絵札「つ」裏面クイズ
Q 角でごしごしと木を傷つけることをなんていう?
秋はエゾシカの交尾期にあたります。この時期のオスは、イライラしているのか、悶々としているのか、角で林内の草を掻き上げたり、木の幹を擦ったりと、角を使うことが増えます。秋、角に植物が巻き付いているオスジカを見ることがあるのはそのせいです。主にケンカ角と言われる前に突き出た1尖目の角の先端で、線状に木の幹をガリガリと削る行為が、“つのとぎ”です。同じ木に何度も繰り返すので、何本も線状の傷がつきます。ヒグマの爪痕と混同されることも少なくありません。“つのこすり”は、角を面的に使って、木の幹を擦る行為です。主に角の付け根(1尖目と2尖目の間)部分でやることが多いようです。クイズの回答は“つのとぎ”も“つのこすり”も正解ですが、ごしごしといえばどちらかというと“つのこすり”になるかもしれません。
(まつうら・ゆきこ 「えぞしかるた」作者)