伊藤英人の狩猟本の世界
174.『肉食行為の研究』野林厚志編、平凡社、2018年
「肉食」をキーワードとした、人類学・生態学・社会学などやや広い範囲からの論集。
まず、編者による序文が充実している。概要と刊行の主旨に加え、肉食に関する諸問題のレビューが非常にわかりやすく、読者は整備された情報を得てから各論を追っていくことができる。
各論では16名の著者が1章ずつ事例や考察を展開する。どの章も興味深いが、個人的には第2章「食べられる肉/食べられない肉」(加藤裕美)と第16章「動物福祉の論理と動物供養の倫理」(伊勢田哲治)がよかった。
第2章は狩猟民の肉食禁忌ルールにおいて、「食べる動物」「食べない動物」それぞれに理由があるにもかかわらず、人によって分け方がまちまちなほど境界があいまいなのがおもしろかった。
第16章では、供養などの日本的な動物観をもとに、欧米流の動物観に比肩する倫理が構築できないか、という試みである。残念ながら現状では、ヒントこそ「供養・愛護・有難さ」の中にあるものの、かなり洗練させなければ比肩性など「望むべくもない」と結論されてしまっている。
欧米からそっくり流用した動物観に頼らないで、偏った愛護や捕鯨批判を一蹴するほどの日本的動物観を早急に構築しなければならない。日本の野生動物管理は、本来そのような自然観をもとに基盤として成立すべきものである。