伊藤英人の狩猟本の世界
176.『生き物を殺して食べる』ルイーズ・グレイ著、宮崎真紀訳、亜紀書房、2018年
イギリスの環境ジャーナリストが1年間、自分で屠った、または来歴のわかる肉(や魚介)だけ食べ、ほかは植物を食べるという企画。基本はベジタリアンで、サバイバルではない。狩猟メインの話でもないが、狩猟は終盤のヤマ場で出てくる。養魚場、屠畜場、食肉工場、猟場を取材してレポートする。初めて撃ったウサギへの思い、父との人間関係など、心理描写が細かい。
結論は工場畜産の否定で、来歴のわかった肉だけ食べる「倫理的肉食者」になることをすすめ、肉食量を全体的に減らすことを呼びかけている。取材相手への配慮がみえるものの、肉食全体を否定していたベジタリアンが(倫理的)肉食に踏み切ったおもしろいパターンである。
さまざまな食肉・漁業・狩猟関係者が登場するが、なかでも「ロードキル捕食人」と「ハラル屠畜」の章が興味深い。ロードキル待ちのアリソンさんは、事故頻発道路を「スーパーマーケット通り」と名づけ、衛生・法律などの独自の審査基準を設け、肉を食べ、剥製をつくっている。筆者はこれを倫理的肉食として絶賛する。獣道の一部を寸断して舗装し、不定期に車を通らせるという、大がかりなワナ猟か?
ハラル屠畜は、屠殺時に気絶させるかどうかで意見が割れているらしい。気絶させると祝福の言葉が聞けなくなってしまうのが問題だという。イスラム教徒のヒツジは気絶させないほうがいいのでは。