伊藤英人の狩猟本の世界
220.『殴り合いの文化史』樫長真佐夫著、左右社、2019年
ボクシングを中心とした、「殴る」ことについての文化史。殴ることは野蛮でも何でもなく、むしろヒトぐらいにしかみられない人間的な攻撃であった。
狩猟者としては「殴る」が効果的な攻撃なのかどうか知りたかったが、殴った側にもダメージがくるうえ、直接のダメージよりも脳を揺さぶるのが目的らしく、道具を使ってたたくほうがいいようだ。止めさしで棒などでたたく狩猟者が多いようだが(私はやらないが)、たたくときは脳をはじめ神経系へのダメージを狙うべきである。
殴ることは、相手への物理的な攻撃というよりは、相手に負けを残酷なまでに見せつける、精神的な意味合いが強い。このところよく聞く「マウントをとる」行為である。そして、それを見たいからこそ観客は盛り上がり、強さに憧れる。批判はあっても、効果的な攻撃でなくとも、殴る行為は今後もなくなることはない。
決闘から派生したマイナー競技がルール整備され、広まり、オリンピック競技にまでなる経緯はなかなかドラマティックであった。