伊藤英人の狩猟本の世界

225.『うしろめたさの人類学』松村圭一郎著、ミシマ社、2017年

225.『うしろめたさの人類学』松村圭一郎著、ミシマ社、2017年

著者がエチオピアでのフィールドワークで感じた、日本との差について。

日本で感じる生きづらさ、たとえば町にいるヘルプマークの方、ホームレス、困っている方々などに対する冷たい感じによって窮屈に感じることがある。それを解消するカギは、エチオピア人のように「うしろめたさ」に敏感になることだ、という。

狩猟民の肉の分配にも慎重な配慮がある。もらう側は当たり前のように受け取り、獲った人はしばらくもらう側に回る。負い目の蓄積が格差となることを避けている。エチオピア社会の背景にもこの狩猟民の姿勢がありそうだ。

シルバーシートをためらいなく占拠するのではなく、うしろめたさをしっかり感じ、すぐ席を立つ社会が望ましい。札幌の地下鉄では優先席ではなく「専用席」とされており、空いていることが多いが、東京の優先席はひどい状態である。これを専用席と表示しようとすれば、かなりのバッシングが起こりそうな気さえする。

私が前にいた会社でのパワハラ被害者も、同僚から無視され放置されていた。被害者が転職しても、会社と同僚が意識を変えないと、何の解決にもなっていない。うしろめたさと共感をもつ人間がふえてほしい。