伊藤英人の狩猟本の世界

273.『人間はなぜ歌うのか?』ジョーゼフ・ジョルダーニア著、森田稔訳、アルク出版、2017年

273.『人間はなぜ歌うのか?』ジョーゼフ・ジョルダーニア著、森田稔訳、アルク出版、2017年

歌の起源にせまりつつ、歌に関する大胆な仮説の数々を打ち立てる挑戦的な本。

著者がいうには、狩猟は歌の起源に大きく関係している。オールブラックスのハカにみられるような、集団での歌と踊りが生み出す連帯感を、著者は「戦闘トランス状態」と呼ぶ。このとき、個々人は痛みを感じず、死を顧みず、超人的な身体能力を発揮する。そして、個人よりも集団の利益を優先した行動をとるそうである。

ライオンと食糧を奪い合いながら共に進化してきたという仮説は、信じ難いがおもしろい。人間のグループの1人がライオンに食べられると、その死体を奪還し、グループで食べることにより、ライオンに人食のリスクを植えつけ、襲わせなくするという仮説である。飛躍しているように思えるが、「強大な獣がなぜ貧弱なヒトをあまり襲わないのか」は私もしばしば思う大きな謎であり、著者の問題意識にはとても共感できる。