伊藤英人の狩猟本の世界

293.『日本の動物法 第2版』青木人志著、東京大学出版会、2016年

293.『日本の動物法 第2版』青木人志著、東京大学出版会、2016年

法の専門の立場から、ごく冷静に動物を語ってくれる著者の存在に感謝。法的に見た動物(ヒト以外)の位置づけについて、著者によると、動物が人間と完全に同等の権利をもつことは、いまのところありえない。

アニマルウェルフェアの先にあるのが権利論。白人にしかなかった権利が黒人にも先住民にも女性にも子供にも広がっていき、次は動物だ…、のように主張する人もいるが、この場合の「権利」は法律用語ではない。「『権利』とはいっても、厳密な法学的検討にさらされたものではなく、裁判実務上の応用可能性を念頭に置いたものでもない」。この「権利」を法律論として議論するには、倫理思想を政治団体や愛護団体の主張から切り離して実用レベルに降ろし、「現実的な法概念として冷静に再構成しなければならない」。

法は、権利の主体である「人間」と、「モノ」を峻別する。動物は「物」であり、人間ではないし人間になることもなければ法人でもない。(ただし、ドイツやフランスでは動物を第三のカテゴリにする考えが台頭している。)法学的には、人と動物の差はまだまだ大きいようだ。

人と動物の関係論は、倫理学(23.『動物からの倫理学入門』などを参照)、人類学(292.『動物殺しの民族誌』などを参照)、そして法学でそれぞれ違っている。生物学や野生動物管理学でも、もっと思想の話をしていかなければならないと思う。そして、狩猟者である私の感覚は、狩猟民研究の蓄積がある人類学に近い。机上ではなく現場の、肌感覚の思想が、狩猟のたびに更新されてゆく。