伊藤英人の狩猟本の世界
ウィレム・デフォー「ハンター」
ダニエル・ネットハイム監督、2011、オーストラリア
ワナで生態調査
主人公は、山に入ってすぐ、エサを伴うワナを、GPSの緯度経度をもとに格子状に配置した。これは、ハンティングというよりは調査目的のサンプリングに近い。学術研究や環境調査において、小・中型哺乳類の個体数や分布、種構成などを推定するときによく行われている方法である。ネズミ、タヌキ、アライグマなどの小・中型哺乳類は、エサワナにかかりやすく、行動圏が比較的狭いのでこの方法が適している。一定の間隔で配置するため、土地勘がない場所でも大量にしかけられるうえ、ワナを見回る際に設置場所にたどりつきやすい。エサに誘引力があるので、設置のときに獣道や痕跡を細かく調べる必要はない。
ワナの種類
3種類のワナが使用されていた。トラバサミ、ハネワナ、ゴムワナで、どれも単純な仕組みの足くくりワナである。映画ではワナをかけるところからカモフラージュまで見せてくれる。トラバサミはかつて日本でも使用されていたが、徐々に規制が厳しくなり、最近ついに使用禁止になった。イヌくらいのサイズが対象なら、開いた直径が12cmあれば十分。映画のトラバサミは、少し大きいように思える。このサイズでは人間がかかってしまうおそれがある。また、現地住民が、鉄製ワナの使用に対して懸念を表明していたシーンがあった。鉄製ワナはペットや希少種、猟犬を傷つけることがあり、動物愛護などの理由から嫌われているようだ。主人公があっさり「使っていない」とかわすところがおもしろい。ハネワナは、現場に生えている細い木や竹の弾力、ゴムワナはゴムの伸び縮みを利用した、原始的なタイプである。動物を固定するワイヤー以外はたいした材料がいらないので、荷物が軽くてすむ。しかし、現地での手製のため、設置の技術によって捕獲精度がまちまちになってしまう。さらに、設置に時間がかかり、多くはしかけられない。ゴムはおもしろいアイデアだが、ニオイが嫌がられないか気になる。
なぜ3種か
学術目的なら、設置に時間がとられず、精度の安定したトラバサミに統一したいところだが、鉄製で重く、長距離の携行に適さない。2基で1kgくらいになる。そこで、ハネワナとゴムワナで代用した形と思われる。
エサ
狩猟場が広大なので、くまなく痕跡を調べるのは不可能。そこで、エサの誘引力に期待したい。すぐにかぎつけてくれる。エサを現地調達したのはよい判断である。ワナに反応がなくてもエサにイタズラされることはよくある。悔しいけれども残していってくれた痕跡を得ることができる。しかし、映画でエサがそのまま残っていたということは、肉食獣の生息密度が低いと予想される。こうなると、設置場所を変えるという判断ができる。
入念な痕跡調査を
確かに狩猟場が広かったものの、もっと入念に痕跡を調べてよかったのでは、と思った。雪や水場があり、足跡を見つけるチャンスは多そうだ。動物だけでなく、人間がどこにどれだけ入っているかなど、情報をもっと得られるはずだ。
生け捕りの利点
ワナ猟は、銃と違って、生け捕りできるのが大きな利点である。獲物が生きていたほうが価値は高い。しかし、その利点をうまく生かしていなかった。かかった獲物(ウォンバット?)が死んでいたが、肉食獣はそんなに弱くない。3日は死なないはずである。もう少し頻繁に見回ったほうがいい。
そしてハンティング
徐々に獣の痕跡を得て、本格的なハンティングが始まる。後は、お楽しみ!