赤坂猛「野生動物問題よもやまばなし」
  • あかさか・たけし
  • 一般社団法人エゾシカ協会代表理事。

第15回 狩猟鳥獣の捕獲数(余録及び要望)

本連載(第2~14回)では、狩猟鳥獣の捕獲数の推移(1927~2016年)と社会の関りを見てきました。今回は、「狩猟鳥獣の捕獲数」に係る論文及び狩猟統計資料について記し(吐露し)、この連載(猟鳥鳥獣の捕獲数)を閉じたいと思います。

まず、本連載では、環境省自然環境局野生生物課(2001)がまとめた狩猟鳥獣の捕獲数の経年変化(1928~1998年)を示した図-1、及び図-1に1999年から2016年までの狩猟鳥・獣の捕獲数データを鳥獣関係統計資料(環境省HP)より得て作成した図-2を用いて、狩猟鳥獣と社会の関りを視てきました。

実は、図-1(環境省 2001)が公表される30年程前に発刊された大著「鳥獣行政のあゆみ」(林野庁編 1969)に、狩猟鳥獣の捕獲数の推移等が詳述されています。

図-1

図‐1 鳥獣の捕獲数の経年変化(一般狩猟)(「野生鳥獣保護管理検討会資料集」環境省自然環境局野生生物課 2001年3月より).クリックで拡大します

図-2

図‐2 狩猟鳥獣の捕獲数の推移(1928年~2016年).

 

「鳥獣行政のあゆみ」第4章の狩猟統計の分析

全572ページからなる大著「鳥獣行政のあゆみ」(写真-1)は、狩猟法を大改正した1918(大正7)年から50年を経過した機会に、「わが国の鳥獣行政の沿革を取りまとめ、温故知新の具として鳥獣行政の新しい展開に資するとともに、諸先輩の偉業に応える」ために編纂した、と「まえがき」にあります。編纂に際しては、当時、鳥獣行政を所官していた農水省(林野庁)があたりました。

写真-1

写真‐1 「鳥獣行政のあゆみ」(林野庁編 1969)

さて、本書の第4章「鳥獣調査等」、第2節「鳥獣の生息概要」、2「大正以降の狩猟鳥獣の増減」の(2)「狩猟統計の分析」には、狩猟鳥獣の捕獲数の推移図及び種ごとの解説等が30頁余にわたり記されています。図-3(林野庁編 1969)は、1923(大正12)年から1964(昭和39)年までの41年間の全国の狩猟鳥及び狩猟獣の捕獲数の推移を示したものです。図-3の上のグラフが狩猟鳥、下が狩猟獣です。

図-3

図‐3 大正末年から昭和39(1964)年に於ける全国の狩猟鳥及び狩猟獣の捕獲数の推移(林野庁編 1969).クリックで拡大します

実は、私が図-3のグラフ「狩猟鳥」に違和感を抱いたのは、本連載の後半に入っていた時のことでした。図-3では、昭和初期から昭和20(1945)年までの間、狩猟鳥の捕獲数は概ね500万から850万羽の間で増減しています。

一方、図-1(環境省 2001)のグラフ「狩猟鳥」の捕獲数は、概ね1500万超から1900万羽の間で増減しています。図-1と図-3の『狩猟鳥』の捕獲数の推移には、1000万羽程の隔たりがあります。

そこで、まず図-3の詳細を視るため「鳥獣行政のあゆみ」を精読しましたが、「図-3又は全国の狩猟鳥獣の捕獲数の推移」に関する記載はありませんでした。本文で30頁余にわたり詳述されていたのは、狩猟鳥のキジ、ヤマドリ、ウズラ等14種及び狩猟獣のクマ、オスジカ、イノシシ等11種の捕獲数の増減等に関する解説でした。

「鳥獣行政のあゆみ」からは、図-3のグラフ(狩猟鳥の捕獲数の推移)に資する情報は得られませんでした。ところが、程なく「鳥獣行政のあゆみ」と同時代に発刊された北海道庁林務部(1969)の刊行物「北海道の猟政」にヒントを見つけました。

 

「北海道の猟政」第5章の鳥獣統計

「北海道の猟政」(北海道 1969)の表紙には、『鳥獣保護制度50年』とあります(写真-2)。先の「鳥獣行政のあゆみ」(林野庁編 1969)は、狩猟法を大改正した1918(大正7)年から50年を経過した機会に林野庁が編纂したことは先述しましたが、「北海道の猟政」も同様の趣旨でまとめられことが「まえがき」に謳われています。

全123頁の「北海道の猟政」の第5章「鳥獣統計」、3「狩猟鳥獣捕獲状況」には、1923(大正12)年から1966(昭和41)年の間の狩猟鳥及び狩猟獣の捕獲数の推移について、全国及び北海道別にまとめた緒表が8頁にわたり掲載されています。

写真-2

写真‐2 「北海道の猟政」(北海道 1969)

まず、表-1(北海道 1969)は、狩猟鳥と狩猟獣の年次ごと、全国・北海道ごとの捕獲数をまとめたものです。狩猟鳥の総捕獲数(表-1)は、大正12(1923)年(3,822,019羽)、昭和元(1926)年(6,423,159羽)、昭和5(1930)年(6,296,909羽)、昭和10(1935)年(8,697,352羽)、昭和15(1940)年(6,810,115羽)、そして昭和20(1945)年(5,835,187羽)…とありました。

表‐1 狩猟鳥獣の捕獲数の推移(全国)(大正12年~昭和30年)(北海道 1969).クリックで拡大します

表-1

そこで、早速、表-1の全国の狩猟鳥の年次ごとの「捕獲数」を、図-3(林野庁編 1969)のグラフと突き合わせたところ同様の傾向であることが確認できました。要するに、林野庁編(1969)の図-3と北海道(1969)の表-1は、『同様の統計資料』から作成されたことが推測されました。『鳥獣保護制度50年』を迎え、林野庁と都道府県の狩猟行政部局は『同様の統計資料』を共有していたことが伺われます。

さて、「北海道の猟政」の緒表8頁には、「年度別捕獲数(鳥)」として、カモ類、アイサ類、マガンなど14種・類ごとの、年次ごと、全国・北海道ごとの捕獲数をまとめた表が5頁にわたり掲載されています(表-2-①~③)。表-2は、表-1の狩猟鳥の「種別の内訳」としてまとめられた「明細表」に相当するものと思われました。

表‐2‐① カモ類等4種・類の狩猟鳥の年度別捕獲数(全国・北海道)(北海道 1969).クリックで拡大します

表‐2-1

(注)「年度」の範囲は昭和5年度までとする(原表は昭和42年度まで)。以下の②、③も同様である。

表‐2‐② スズメ類等5種・類の狩猟鳥の年度別捕獲数(全国・北海道)(北海道 1969).クリックで拡大します

表‐2-2

表‐2‐③ バン等5種・類の狩猟鳥の年度別捕獲数(全国・北海道)(北海道 1969).クリックで拡大します

表‐2-3

従って、表-2の年次ごとの「14種・類の狩猟鳥の捕獲数の合計」は、表-1の全国の狩猟鳥の捕獲数と一致するに違いない、と考えました。結果は、表-2の「14種・類の狩猟鳥の総捕獲数」は、表-1より「34万から65万羽」少ないことがわかりました。要するに、表-1の狩猟鳥の捕獲数には、表-2の「14種・類の狩猟鳥」以外の『狩猟鳥』の捕獲数が加算されている、と推測されました。

そこで、「鳥獣行政のあゆみ」の編纂作業の実施された昭和30年代後半の「狩猟鳥25種(表-3)」と「カモ類、アイサ類、マガンなど14種・類」(表-2-①~③)を突き合わせたところ、「カモ類など14種・類」(表-2)」は狩猟鳥の23種に該当することが分かりました(表-3-①)。昭和30年代後半の「狩猟鳥25種(表-3)」のうち、北海道に生息しない狩猟鳥「ヤマドリ及びコジュケイ」の2種は、表-2から除かれていました。これら2種の捕獲数の合計が、先の「34万から65万羽」に相当するのではないかと思われます。ちなみに、「鳥獣行政のあゆみ」には、ヤマドリの捕獲数について、昭和2(1927)年(49万羽)、同7(1932)年(44万羽)、同12(1937)年(46万羽)及び同17(1942)年(46万羽)とありました。なお、コジュケイが狩猟鳥に指定されたのは1947(昭和22)年のことでした。

表‐3 昭和30年代の狩猟鳥獣

狩猟鳥(25種) ゴイサギ、キジ、コウライキジ、ヤマドリ、ウズラ、エゾライチョウ、コジュケイ、カモ類(オシドリを除く)、ウミアイサ、カワアイサ、ミコアイサ、ヒシクイ、マガン、バン、オオバン、タシギ、ジシギ、ヤマシギ、キジバト、ワタリガラス、ハシブトガラス、ハシボソガラス、ミヤマガラス、スズメ、ニュウナイスズメ
獣類(16種) クマ、ヒグマ、イノシシ、オスジカ、キツネ、タヌキ、アナグマ、テン、ムササビ、リス、シマリス、タイワンリス、オスイタチ、ノウサギ、ノネコ、ノイヌ、ヌートリア

(注)上記の「狩猟鳥獣の種類」は、昭和38年6月14日農林省令第41号狩猟法施行規則の一部改正によるもの。

 

表‐3‐① 昭和30年代の狩猟鳥.表‐2の「カモ類など14種・類」に該当しない狩猟鳥は、朱字のヤマドリ及びコジュケイの2種である.

狩猟鳥(25種) ゴイサギ、キジ、コウライキジ、ヤマドリ、ウズラ、エゾライチョウ、コジュケイ、カモ類(オシドリを除く)、ウミアイサ、カワアイサ、ミコアイサ、ヒシクイ、マガン、バン、オオバン、タシギ、ジシギ、ヤマシギ、キジバト、ワタリガラス、ハシブトガラス、ハシボソガラス、ミヤマガラス、スズメ、ニュウナイスズメ

いずれにせよ、表-1の全国の狩猟鳥の捕獲数は、昭和30年代後半の狩猟鳥25種の捕獲数を元にまとめたことが「北海道の猟政」の諸表から推測されます。従って、図-3(林野庁編 1969)のグラフ「狩猟鳥」は、大正末年から昭和39(1964)年の間、昭和30年代の狩猟鳥25種に限定し作図したものと思われます。その結果、図-1(環境省 2001)と図-3(林野庁編 1969)のグラフ「狩猟鳥」の捕獲数には、1000万羽程の隔たりが生じてしまったと推測されます。

 

「狩猟統計資料」に思うこと

図-1(環境省 2001)と図-3(林野庁編 1969)の「謎解き」に少々時間を要してしまいました。狩猟鳥獣の統計資料がすべて公表されていれば、先の「謎解き」は容易にできたはずです。狩猟鳥獣の捕獲数について、年度ごと、狩猟鳥獣ごと、都道府県ごとの統計資料を「誰もが・いつでも・容易に」閲覧できるような環境整備を願いたいものです。

野生鳥獣は国民共有の財産(生物多様性国家戦略 1995)と謳われ、早くも四半世紀が経ちました。国民の共有財産である野生鳥獣の基本的・基礎的な統計資料等に係る閲覧環境の整備は、国の責務ではないでしょうか。

一つの例を提案したいと思います。表-4-①、②は、1933(昭和8)年9月に発行された大日本連合猟友会の会報誌「連合猟友」の創刊号に掲載ざれた「鳥獣統計資料」です。まず、「昭和7年度 狩猟免許者に依る種類別鳥類捕獲員数」(其一)(表-4-①)には鳥類30種、同(其二)(表-4-②)には鳥類15種、計45種の狩猟鳥の統計資料が、また、「昭和7年度 狩猟免許者に依る種類別獣類捕獲員数」(表-4-②)には獣類13種の統計資料がそれぞれ都道府県別に記載されています。このような「鳥獣統計資料」が毎年度、農林省畜産局の狩猟行政部署において作成・公表されてきたからこそ、民間機関の会報誌「連合猟友」に掲載されたのではないでしょうか。私の手元には、1932(昭和7)~1934(同9)年度の3箇年分の「鳥獣統計資料」しかありません。「鳥獣統計資料」は、表-1(北海道 1969)より大正12(1923)年から作成されていることが推測されます。


表‐4‐① 昭和7年度、狩猟鳥獣の都道府県別捕獲数(狩猟鳥‐1)(大日本連合猟友会 1933).

表‐4‐② 昭和7年度、狩猟鳥獣の都道府県別捕獲数(狩猟鳥‐2及び狩猟獣)(大日本連合猟友会 1933).


年度ごとの「鳥獣統計資料」を「誰もが・いつでも・容易に」閲覧できるようにしていただきたいものです。

最後に、唐突ではありますがオオカミと鳥獣統計資料について記します。

「捕食者なき世界」(ソウルゼンバーグ 2010)には、高槻成紀さんが「日本の頂点捕食者を考える」と題した解説(全5頁)を寄せています。以下の「解説」に触れた私には、鳥獣統計資料が浮かんできました。

「ただ、日本の場合、シカの増加がこの20年ほどで急激に起きている。オオカミが絶滅したのは1905年とされる。オオカミがいなくなったせいでシカが増えたのであれば、約百年間増えなかったことをどう説明するのか。諸説あるが、明快な決定打はない。」

「諸説」あるとのことですが、私は、シカが「約百年間増えなかった」のは、この間、シカも含めた狩猟鳥獣が様々な高い「捕獲圧」に晒され続けてきた(第2~14回参照)ことにも起因しているのではないかと推測しています。このことについては、鳥獣統計資料の一層の公開等も踏まえつつ、今後の更なる調査研究に取り組む必要があると考えています。「鳥獣統計資料」とフィールドワークをコラボさせた調査研究の進展が楽しみな所以でもあります。(了)


引用文献


2021年4月6日公開