伊藤英人の狩猟本の世界
55.『非常食糧の研究』東方籌著、東洋書館、1942年(復刻版は批評社、1983年)
飢饉の分析と対策、そしてその際に何を食べるか、というコンセプトの本。食物は獣のほかにもキノコ・虫・魚介類・野草などを掲載。簡素な調理法と効能が種別に説明される。効能は、真偽は定かではないが「食べたら体温が上がる(猪肉)」「元気になるけど食べすぎ注意(鹿肉)」など実用的な記述がかえって非常時の緊張感を思い起こさせる。保存法や備蓄法についても文献をよく調べている。
人間の限界を教えてくれる。食べることはまさに生きることであり、狩猟能力は生きるための力である。この本がかつて人々の命を救ったかも、と想像すると、出版人としては感慨深い。