伊藤英人の狩猟本の世界
158.『共生のフォークロア』野本寛一著、青土社、1994年
本書は、伝承や昔話などの日本民俗学の成果のなかから環境思想を見出す試みであり、著者はこれを「環境民俗学」と呼ぶ。
異世界とされるオクヤマへの畏怖、数十年の休作・森林再生期間を設ける焼畑、手を出さない「止め沢」を決めて乱獲を自制するサンショウウオ漁などを例に、農林漁業者のモラルから複雑な自然観を探っている。
第Ⅱ部「共存の葛藤:ディレンマの動物誌」では、鹿・猿・狼などの、神格化されつつも米を食い土葬死体を暴く害獣である野生動物たちと築いてきた微妙な関係が語られる。そして、時節柄、地元の意向を汲み入れない奥山の大規模開発やダム建設を批判している。
刊行から20年、野生動物をとりまく状況が変化した今、改めて当事者として動物との関係を問いなおしたい。