伊藤英人の狩猟本の世界
160.『対面的〈見つめ合い〉の人間学』大浦康介著、筑摩書房、2016年
人間どうしが見つめ合うことで生じる強烈な違和感。著者はそれを「対面的磁場」と呼ぶ。対面的磁場は争いや恋愛に発展する。本書は対面にまつわるエピソード(ガンつけ、キス、あがり症、決闘、動物の反応など)をまとめている。朝日新聞・読売新聞の書評も参照されたい。
ここでは、見つめ合いに関する項目のうち戦闘について注目する。
戦闘中は、緊張感のある対面的磁場が発生し、見つめ合い、目が離せない。互いに目を見ながら、相手の体の動きをとらえている。宮本武蔵は、五輪書によると、このとき通常の視覚ではなく、ざっくりと、遠近を逆転させるつもりで見ろという。
対面しない場合は、公正な戦いにならない。ボクシングでは対面が前提となる。対面するからこそ、殴り合いが競技として成立している。
対面には抑制の効果もある。顔のせいで相手をモノ扱いできない。対面しない攻撃は一方的で、競技なら反則となり、まさに暴力である。
ここで、止めさしに関する私の疑問について考えたい(このために本書を読んだ)。ベテラン狩猟者の片桐邦雄氏や有泉大氏(159の著者)は、くくりワナにかかった獲物にガムテープで目隠しを施す。わざわざ危険を冒して接近する(そしてダメージは与えない)メリットは何か、というものである。
本書には、普段は恋人を見つめるのは困難だが、寝顔なら所有物にできる、という例があった。「対面するとは、生を生としてとらえること、生の予見不能や制御不能をそのまま受け入れることである。」
目隠しは、対面をさける行為にほかならない。対面的磁場を遮断し、相手を制御し、自己の抑制を解放する。この狩猟法においては、目隠しの瞬間に、相手が生物から所有物、つまり肉(毛皮)に変化した、と表現できよう。
ほかに、狩猟に関連するテーマとして、人間と対面したときの「動物の反応」も興味深い。動物の環境認識の参考になった。