伊藤英人の狩猟本の世界

165.『カナダ・インディアンの世界から』煎本孝著、福音館書店、1983年


165.『カナダ・インディアンの世界から』煎本孝著、福音館書店、1983年

人類学者による北米狩猟民の記録。文体は文学的で読みやすい。著者も銃を使う。冬、季節移動のトナカイがくるまで、刺し網漁やヤマアラシで食べつなぐ。トナカイは、人が飢えているときに向こうから肉を与えにやってくる。移動ルートを予測し、雪上で、犬ゾリとカンジキを使ってトナカイを追跡する。撲殺は忌避される。頭は持ち帰らずその場で食べる。頭の食べ方の記述が細かい。女性はキャンプで肉の乾燥と毛皮なめし。骨はまとめてゆでて、ラードの要領で脂をとる。

狩猟の腕が家族を支える。トナカイをとれないと家族で物乞いするしかなく、家族内外の人間関係が悪化する厳しい世界。

インディアンは、トナカイについて一つのまとまりを持つ集団ととらえている。小さな群れが移動を始めると、ほかの群れも動き、合流する。「ひとつの頭を持つ」からこそ他の群れのことがわかる。だから、棒で殴り殺すと、他の群れにも伝わり、もうその場所に二度とやってこない。