伊藤英人の狩猟本の世界
168.『森の探偵』宮崎学・小原真史著、亜紀書房、2017年
「人間の時間軸とはズレた無人カメラで撮られた写真は、自然を冷静に読むためのヒントを与えてくれます。」
独学で動物の自動撮影法を追求し、「自然な」生態写真をみせてくれる宮崎学氏の撮影秘話。撮影時の工夫とともに成功写真があるため、撮影の背景や苦労がわかりやすい。
膨大な経験から、動物の行動を細かく把握している。たとえば、フクロウには「庄屋フクロウ」と「間借りフクロウ」がいるというように独特の表現をしている。その現場ならではの眼でみた、獣害、外来種、えさやり、原発事故について語ってくれている。
生態系におけるスカベンジャー(腐肉食者)の役割の重要性も語られる。さまざまな条件下で死体が消費されていく過程の描写が細かく、勉強になる。ウジが増えるのを待って、一晩で間をあけて3回食べにくるツキノワグマはさすがである。
自然に還りゆく死体をみて、独特の死生観が醸成される。土に還り、自然に戻る「野垂れ死に」に憧れる。一気に焼却し、自然とのつながりを絶つ火葬に疑念を抱く。私も同感である。死は避けるものではない。「生命の始まりの部分だけを礼賛するのではなく、終わりの部分もちゃんとみなければいけない。」
ほかにも、加齢臭、女人禁制、学習放獣に関する独特な説(や批判)がおもしろく、どれも説得力がある。
ワナ猟者としては、獣道、人間との近さについて参考になる。今や、獣すらまばらな山奥で人のにおいをつけずにワナをかける時代ではないのかもしれない(もともと無理な話だが)。むしろ、人間との距離が近すぎて、ワナに人がかからないようにしかける注意がいる。都市にも、家の近くにも獣が出る。ということは、技術があればすぐ近くでも獲れるということでもある。
銃が使えない「都市猟」では、ワナが力を発揮する。