伊藤英人の狩猟本の世界
178.『ぼくらはそれでも肉を食う』ハロルド・ハーツォグ著、山形浩生ほか訳、柏書房、2011年
心理学出身の人類動物学者(Anthrozoologist)が、肉食タブーや採食主義、性差、闘鶏、工場畜産、実験動物、ペットなど、動物─人間関係の難題に痛快に迫る本。最初の2ページで6回くらい笑った。
当事者や活動家が正直で率直な感情論を語り、心理学・人類学など多様な専門家がそれぞれの立場でもっともらしいことをいう。誰もが、活動家や専門家ですら、理屈と感情(かわいい、肉おいしい)のはざまで葛藤と矛盾を抱きつつ、折り合いをつけながら動物と向き合っている(そして肉を食べている)。極論に至るケースがまれにあるが、結局、感情が勝つことが多い。しかし著者は、そんな中途半端な態度を否定や批判することなく、むしろ人間らしいと受け入れる。
私はこれまでさまざまな立場の主張をなるべく集め、精査し、受け入れたり反論したりして向き合いつづけてきた。それを続ければ、矛盾なく一貫性のある主張に到達し、その態度でいられると思ってきた。しかし、そうとは限らない。複雑すぎる。もう、一貫性の構築はいっそあきらめて、動物に真摯に向き合っておとなしく狩猟していくという新しい方向性に気づかせてくれた。反対派との議論は引き続き深めていきたいが、矛盾を突きあっても結論は出ない。狩猟も肉食も不滅の公算が大きい。
カバーイラストは畑正憲氏。