伊藤英人の狩猟本の世界

182.『ウサギ学——隠れることと逃げることの生物学』山田文雄著、東京大学出版会、2017年



182.『ウサギ学——隠れることと逃げることの生物学』山田文雄著、東京大学出版会、2017年

ウサギに関する文化・生態・形態・繁殖・分類・分布・外来種・保全などを幅広く網羅した総説で、日本ウサギ学研究の決定版。日本のウサギについてこれほどのレビューを書ける著者はほかにいない。侵略的外来種対策への熱い思いと、調査協力者に対する細かな配慮から著者の性格がうかがえる。

ウサギ科学の国際的連携についても書かれる。そういえば、私の参加した国際哺乳類学会で、「国際リス会議」の隣室で「国際ウサギ会議」が行われていた。そのときはカワイイ感じのウサギ部屋を勝手に想像し、のぞき見したときに幻滅したが、実際は(ウサギ不在ではあるが)保全などについての学際的な会議が行われていたようである。

私はノウサギをこれまで何度か捕獲している。ワナにかかった後すぐに回収しないと、私以外の捕食者に食べられてしまう(山の誰かと獲物を分け合うことを山分けと呼ぶ)。私の印象では、戦闘力がかなり低く、さまざまな種に食べられているので、サブタイトルのように隠れて逃げて生き残ったというよりは、食いそびれや食べ残しと思っている。外来ウサギの駆除や稀少ウサギの保護の研究には、捕食者側の動向が重要との考えについては同感である。

最初のほうに肉の味についての記述があるが、著者(山田さん)はまだノウサギ肉を食べていないようで、食リポが引用しかなかった。一言いってくれれば肉を差し上げたのに、間に合わず残念である。