伊藤英人の狩猟本の世界
194.『食物倫理入門』ロナルド・L・サンドラー著、馬渕浩二訳、ナカニシヤ出版、2019年
Food Ethicsを「食物倫理」と訳す。食にまつわる倫理学の入門書。各章のテーマは、「グローバルフードシステム」「食糧援助」「肉食」「生物工学」「健康」「文化」で、全6章。
とにもかくにも、人間の食行動は生態系に大きな影響を及ぼしている。大規模な農地・牧場開発など、ふだん見えないところも多いので、「知らず知らずのうちに」を付け足すほうが正しいかもしれない。そのなかにあって、今後、食行動をよい方向に変えていくための指針。捕鯨や外来種などの応用的なテーマを考えるうえでも助けになる。
狩猟がメインの本ではないが、第3章で狩猟について詳述してくれている。狩猟の倫理を、本書ほど(偏った意見ナシで)体系的にまとめたものはほかにないかもしれない。狩猟についての信念が足りなかったり、自信がもてなかったりする初心者には心強い。何のために狩るか? 答えはいくつもある。それらを整理し、自信をもってフェアに対峙するのが理想的な狩猟である。
第3章「私たちは動物を食べるべきか」では、肉食に反対する2つの論証(動物福祉的理由と生態学的理由)を中心に、その前提、論証に対する反論、反論に対する応答がていねいに書かれる。ほかに、狩猟を肯定する倫理的側面について8例挙げられている。これらをまとめ、(一部の)狩猟は倫理的に肯定されうるという結論に達している。多様な考慮事項があるため、簡単には否定されない、とのことである。
また、第6章「食べ物と文化」も狩猟に関係する。