伊藤英人の狩猟本の世界

211.『猟師が吠える!』山下幸利著、南の風社、2010年

211.『猟師が吠える!』山下幸利著、南の風社、2010年

高知県猟友会理事による、狩猟者が肌で感じた狩猟の現状の、率直な記述。著者は林業家で、シカ駆除部隊でありながら、林業被害者でもある。決して学術的でも政治的でもないが、そのぶん、当事者としての「吠える」声が際立つ。行政に対しては、メスジカ猟解禁の遅れ、有害駆除猟の報酬が少なくほぼボランティアという実態、駆除に対する一般人の理解のなさ(不十分な啓発)などを痛烈に批判する。シカ防護ネットは放置されがちで、シカや猟犬が絡まるというのは現場ならではの問題提起である。はたしてこの声は行政に適切に届いているのだろうか。

印象的なのは、駆除猟を「望まない殺生」とする表現である。筆者によると、金をもらって、やりたいことをやらせてもらっているわけでは全然ない。そもそも割に合わない。駆除対象種のみ集中的に捕獲させられるいびつな猟により、若手育成にも支障をきたしている。それでいて「拍手は少ない」。まだまだ課題は多い。