伊藤英人の狩猟本の世界

217.『まとまりがない動物たち』ジョン・A・シヴィック著、染田屋茂・鍋倉僚介訳、原書房、2020年

217.『まとまりがない動物たち』ジョン・A・シヴィック著、染田屋茂・鍋倉僚介訳、原書房、2020年

「動物の多様性は生態系をモデル化する科学者の仕事を難しくする邪魔ものなどではない。それどころか、個体の多様性は地球上の生命を繁栄に導く推進力である。個体の差異がなければ、進化は存在しないのだ。」

これまで、動物の個性は研究者の間では無視できないものとうすうす感じてはいたものの、ノイズとしてあえて無視されてきた。私も、調査対象に名前をつけることに強烈な抵抗を感じ、番号で呼び、無表情でかわいがってきた。こんな風潮の中、個性にスポットを当てるのはタブーに近い。でも、やっぱり無視できないんじゃないの!? という本である。統計も変わってくるのだろうか。

対象はイヌネコだけではない。たとえばアメンボ、ツグミ、サンショウウオ、クモ。個性の差は多様性。冒険家の個体と慎重な個体の存在が、個体群の分散、ひいては進化に影響してきたといわれると、そんな気がしてくる。(アメンボの個性をよくぞ調べた。)

ワナ猟者としては、獣道の通り方、エサへの反応、ワナにかかったときのふるまいなどにクセつまり個性を感じる。「この動物はこうである」といった一般化がなかなかできない。個対個の戦いの中で、多様性の強さ、おもしろさを感じている。