伊藤英人の狩猟本の世界

266.『動物たちのナビゲーションの謎を解く』デイビッド・バリー著、熊谷玲美訳、インターシフト、2022年

266.『動物たちのナビゲーションの謎を解く』デイビッド・バリー著、熊谷玲美訳、インターシフト、2022年


昆虫、魚、鳥、ラットなど幅広い生物の方向認知についての総説。人間についても、広大な土地で生活する先住民族や、方向感覚障害の例がある。便利なGPSの出現によって、逆にイヌイットの伝統的な方向認知技術が失われつつある。方向認知の能力も、使わなければ衰える。

渡りなどの地球規模の移動の際に方角を知るために、星や地形(視覚)、磁場(磁気感覚)を頼り、総合的に判断しているようである。しかし、それらは大まかな方法を知る方法であり、それだけでは最終盤に正確に目的地へとたどり着けることの説明ができない場合がある。

狩猟獣も数百km単位の移動をするが、獣道を使うわな猟では、もっとミクロな、獣道の選択を知りたい。なぜこの道を通るのか。研究としてはバイオロギングに期待したいが、それで拾えない嗅覚情報の影響も無視できない。

ミクロなほど情報量は多く、要因の特定は困難で、答えはおそらくひとつではない。獣道の見極めは、かなり難しい仕事なのかもしれない。