伊藤英人の狩猟本の世界

276.『絶体絶命』吉田茂著、わりばし隊、2011年

276.『絶体絶命』吉田茂著、わりばし隊、2011年

イノシシ巻狩り中にクマに遭遇し、銃弾が当たった後に反撃に遭い、なんとか生還した実話。著者(総理大臣の人ではない)は興奮冷めやらず、全130ページの力作を自ら製本し知人に配布している。表紙・タイトルからしてクマとの格闘がメインと思いがちだが、84ページでやっと主役のクマが登場する。

クマが穴にいるのはわかっていた。しかし、接近戦用ナイフを所持していなかったこと、穴から飛び出す予測が甘かったこと、カメラ撮影の準備をしていたことが仇となり、馬乗りにされてしまった。反省点はわかりやすい。とにかく生きていてよかった。

格闘中、著者は鉄砲をおく決意を固め、狩猟をもうしないと神に誓う。生還した後、やっぱりやる、と言って結局出猟する。こうした正直な心情描写がかえってリアリティをもたせている。オチがなければ納得されない、作り物の商業出版に一石を投じているのかもしれない。

概して、狩猟者は語りたがり、それを聞くほうは苦痛である。酒やタバコが混じるともう耐えがたい。自分のこととして戒めなければならない。この話は意外にもおもしろかった。