伊藤英人の狩猟本の世界
279.『ヒトと動物の死生学』一ノ瀬正樹・新島典子編、秋山書店、2011年
シンポジウム「ヒトと動物の関係をめぐる死生学」の書き起こし。肉食、供養、動物実験など、動物の死にまつわる話題が提供される。「アニマルセラピーが医学に受け入れられる日は来るか」「補助犬の受け入れはなぜ進まないのか」という直截的なタイトルの章には、当事者による切実な訴えがある。
動物供養は、日本発の倫理思想になりうるか。伊勢田哲治氏(23『動物からの倫理学入門』著者)は否定的で、日常生活を継続しておきながら、罪悪感を事後的に処理するだけのイベントにもみえる、という。しかし、「犠牲を無駄にしない」という一面には可能性を見出している。
一方、一ノ瀬正樹氏(150『死の所有』著者)も供養の倫理に言及するが、前提として、死者(すなわち非存在者)への倫理であって、死者は利害の主体とならず、どういう存在とするかが問題となる、という。いないはずの死者の「存在論」がポイントとなってしまう。
ベジタリアニズム側の主張もあるが、肉食派にやや押され気味である。一ノ瀬氏の思考実験「全員がベジタリアンの社会」「動物実験や動物利用を一切行わない社会」では、それぞれ不都合が多く発生し、実現可能性は低い。
今、アーバン・ベアへの対応が問題化している(272『アーバン・ベア』参照)。動物配慮の倫理規範を構築するには、一ノ瀬氏のいうように、「考え続けていくしかない」のである。狩猟で、深く、直接、動物と死生にかかわることもおすすめしたい。狩猟者はこのシンポジウムに登壇して死生観を披露し、日本の死生学を深めるくらい、哲学的であるべきである。