一般社団法人エゾシカ協会

カマンベールとシードル、エゾシカにシケレペ?


塚田宏幸 (バルコ札幌)

シケレペ
ジュニパーベリー
筆者撮影

 世界で最も有名なチーズのひとつにカマンベールがある。フランスの北西部、ノルマンディー地方の白カビタイプのチーズである。地元特産のチーズにはもちろん地元のお酒がよく合う。ブドウ栽培には向かないこの地でオススメなのは、リンゴから作るお酒、シードル。リンゴの甘酸っぱさがカマンベールと相性抜群。このあたりで放牧されている牛がパクパクとリンゴを食べているのだから、それも頷ける。

 さて、話を北海道に戻して、数年前のこと。私は友人の経営する飲食店でアイヌ料理をご馳走になった。その料理の中で、珍しい食材に出会った。シケレペという木の実である(シケレペはアイヌ語。日本語ではキハダ(シコロ)の実のこと)。友人の話によると、アイヌ料理では煮込みやお茶としてよく使うのだそう。その味・形はジュニパーベリーとよく似ている。ジュニパーベリーとは、ジビエと相性抜群のスパイス。肉をローストするためのマリネ液やソースとして、フレンチを中心によく使う。ジュニパーはヒノキ科、キハダはミカン科なので、似て異なるものだが、どちらも実をかじると独特の爽快感やにがみが口の中いっぱいに広がる。

 エゾシカ料理にぴったりのスパイスだと直感した私は、翌年、仲間たちとシケレペ採取に出掛けた。半日も山中を歩いただろうか、足を棒にして見つけたキハダはほんのわずか。これではとてもスパイスにするには足りそうにない。同行したガイドの話では、森林伐採によりキハダの数は随分と減ったそうだ。

 さらにキハダは、黄肌と書くように内樹皮はきれいな黄色。この部分を乾燥させると黄檗という生薬になり、整腸作用があるという。その作用は人間だけでない。エゾシカもこのキハダを食べ、お腹の調子を整えている(に違いない)。つまり、エゾシカの樹皮剥ぎによってもキハダの数は年々減っているのではないか、とガイドは話してくれた。

 う~ん、もどかしい。カマンベールにシードルが合うように、エゾシカにもシケレペが合うと思うのだが……。どうやらノルマンディーのように上手くいかないようだ。ただ、少量なれどこのスパイスは面白い。土地の食材には土地の物がよく合う。エゾシカとシケレペもその一つだろう。


エゾシカ協会ニューズレター25号に掲載

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