一般社団法人エゾシカ協会

エゾシカの未来


塚田宏幸

ブラッスリー コロン ウィズ ル・クルーゼ

「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2016」に協力して、国内外からのゲストや観客、地元・夕張市民のみなさんにエゾシカ料理をふるまってきた。

1990年に誕生したこの映画祭の歴史は輝かしい。93年、まだ無名だったクエンティン・タランティーノ監督が夕張滞在中のホテルで「パルプ・フィクション」のシナリオを執筆したのはもはや伝説。かのアンジェリーナ・ジョリーも来たことがある(映画デビュー前の女子高生時代)。今回も「旬」の俳優や監督、映画関係者が大勢来道していた。

そんな人たちにぜひ北海道らしいものを食べてもらいたいと、エゾシカ肉に白羽の矢を立てた。当日はカレーとなって登場し、特設の屋台に用意した200食分の料理は、なんと3時間足らずで完売となった。

塚田宏幸

エゾシカのキーマカレー準備風景

塚田宏幸

エゾシカのキーマカレー

私自身、エゾシカの屋台をやるのはとても久しぶりだった。10年前、エゾシカ肉加工品を「ファーマーズマーケット」で販売して以来である。

当時のお客さんたちは、エゾシカに見向きもせず、試食すらしてもらえない状況。これは、いつも思い出す苦い思い出だ。ところが今はあっという間に完売。一般の方たちのエゾシカ肉への反応は明らかに変わった。夢のようである。

夕張から戻った夜、アルバムをめくってみた。

10年前の私は、北海道の木材とエゾシカの頭骨を組み合わせた壁掛けを作ったり、イベントでエゾシカの腿肉を一本薪火でローストしたり。先輩シェフの店に何度も足を運び、エゾシカ料理を食べ、懸命に味を憶えようとしていた。先輩たちと酒を酌み交わしながら「エゾシカはこうすれば美味さを引き出せる」「じゃあこうしてみたら」と熱い議論を続けていた。

あの時、シェフ同士で語り合っていた夢の大半が、いま実現しているのではないだろうか。

塚田宏幸

10年前エゾシカのロースト

エゾシカ肉は本州にも流通し、トップシェフたちも味を認め、一部の大手スーパーが精肉を扱うようになった。世界に通用する素晴らしい加工品も出てきた。処理施設の衛生基準ができ、組合ができ、北海道庁もエゾシカ肉処理施設の認証制度をスタートさせる。すべてこの10年の出来事だ。

エゾシカ料理に魅せられたシェフの熱い気持ちと努力があれば、10年後にもきっと、いま想像するよりはるか先まで進んでいると信じている。

先輩たちの背中を追いかけてここまできた。何かを感じずにはいられない。

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本誌第20号(2006年3月)から10年にわたって連載してきました「美味シカ~コラム」は今号で終了します。長らくのご愛読をありがとうございました。塚田シェフの再登場を楽しみにお待ちください。コラムのバックナンバーはエゾシカ協会のサイトで引き続きお楽しみいただけます。


brasserie coron with LE CREUSET
ブラッスリー コロン ウィズ ル・クルーゼ
札幌市中央区南1条西2丁目
丸井今井札幌本店大通館3F
営業時間 10:00~19:30
定休日 不定休 ※百貨店の休館日に準ずる
☎011-221-4141
http://www.brasserie-coron.com/

 

エゾシカ協会ニューズレター40号(2016年4月)に掲載。

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