一般社団法人エゾシカ協会

「エゾシカ料理まつり」の可能性


塚田宏幸 (バルコ札幌)

 北海道で観光業を営む方にとって、冬一番の繁忙期は雪まつり期間であろう。私もいくつかネイチャーツアーを主催していて、このころは連日のようにゲストが道外からやってくる。

 彼らとの会話で必ず話題になることは食事の話。もし自分がどこかへ旅行したとしたら「美味しいところ、珍しい食べ物」の情報、それも地元の人の行きつけなどを知りたいと思うので気持ちは良くわかる。ところがいざ答える側になり真剣に考えると、様々な嗜好にお答えするのはけっこうな難題である。札幌では、ラーメン・鮨・ジンギスカンがトップ3。だが今年の冬は、後述するエゾシカ料理まつりをイチ押しにさせてもらった。

 さっぽろ雪まつりの開催期間に合わせて、札幌市内と近郊の飲食店がエゾシカのオリジナルメニューを提供するエゾシカ料理まつり。昨年に引き続き2回目の開催である。今年の参加ルールは、エゾシカ協会推奨制度による安心・安全なエゾシカ肉を必ず用い、ほかの主材料も道産食材に限る、の2つ。参加店舗数は、前回の17店舗からほぼ倍の33店舗に及んでいる。
 
 ここ数年、エゾシカ肉への理解は着実に拡がった。今回の参加店に目を向けても、フレンチ・イタリアン・和食・焼き肉・スープカレー・パン類などなど、バラエティに富んだ料理を楽しめる構成。さらにルールである「道産食材を主材料」は、身近な食材が出合い、どういった一品になるのかと期待が膨らむし、観光客にお薦めするにはもってこいのテーマである。エゾシカ料理はどこで食べたら? と普段からちらほらとオススメ料理店を質問されていたし、今回は非常に活用させていただいた。

 個人的な話になるが、エゾシカ肉は北海道の風土や調理技術と融合し、どう育っていくのかということに興味がある。というのも先住民族アイヌの食文化を一度断絶させてしまった北海道では、郷土料理といえるような北海道料理は少ない。ましてやエゾシカ肉は本格的に流通するようになってまだ日が浅い食材。しかし、お肉の味はもちろん、栄養価や背景(北海道だけの食材・化石燃料を使わない天然資源など)に至るまで、エゾシカ肉を語るにネタは尽きない。北海道ならではの食べ方が生まれても不思議ではない。

 21世紀に入って、食はますますグローバル化している。便利になったと言えば聞こえはいいが、あれもこれもと節操がなくなっているようにすら感じる。そんな今だからこそ、郷土料理やローカルフードが愛される時代であると言いたい。郷土料理やローカルフードにあるのは、地域の風土や文化を語る豊かさだ。食の信頼が揺らいでいる今だからこそ、この「エゾシカ料理まつり」のように原点に戻り、食するものが信頼できる食文化を作り上げて欲しい。


エゾシカ協会ニューズレター26号に掲載

前へ 次へ