赤坂猛「野生動物問題よもやまばなし」
  • あかさか・たけし
  • 一般社団法人エゾシカ協会代表理事。

第12回 狩猟鳥獣とその2つの目的

本コラムでは、1928年から近年までの狩猟鳥獣と社会の関りについて視てきました。狩猟鳥獣は1928(昭和3)年から1975(昭和50)年頃までは強い狩猟圧に晒されてきましたが、その後は一気に捕獲数が減少し続けて近年に至ります(図-1)。しかし、唯一シカとイノシシ2種の捕獲数は1990年代後半頃より増え続けていることは前回のコラムで触れたとおりです。

今回は、近年の狩猟鳥獣の捕獲状況などから、「狩猟鳥獣」の課題等を考えてみたいと思います。

図1

図‐1 狩猟鳥獣の捕獲数の推移(1928年~2016年)

狩猟鳥獣について

狩猟鳥獣は、「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」(以下、鳥獣保護管理法とする)で以下のように定義されています。

第2条第7項 この法律において「狩猟鳥獣」とは、希少鳥獣以外の鳥獣であって、その肉又は毛皮を利用する目的、管理をする目的その他の目的で捕獲等(捕獲又は殺傷をいう。以下同じ。)の対象となる鳥獣(鳥類のひなを除く。)であって、その捕獲等がその生息の状況に著しく影響を及ぼすおそれのないものとして環境省令で定めるものをいう。

「狩猟鳥獣」とは、その肉又は毛皮を利用する目的、管理をする目的等で捕獲対象となる鳥獣であって環境省令で定めるものをいう、とあります。環境省令では、鳥類28種及び哺乳類20種の計48種を狩猟鳥獣に定めている(表-1)ことは、第2回コラムでも触れました。なお、定義では狩猟鳥獣とは「希少鳥獣以外の鳥獣」とありますが、「希少鳥獣とは国際的又は全国的に保護を図る必要のあるものとして、環境省令で定める鳥獣」と鳥獣保護管理法に定義されています。

表 狩猟鳥獣

鳥類(28種) エゾライチョウ、ヤマドリ、キジ、コジュケイ、ヨシガモ、ヒドリガモ、マガモ、カルガモ、ハシビロガモ、オナガガモ、コガモ、ホシハジロ、キンクロハジロ、スズガモ、クロガモ、キジバト、カワウ、ゴイサギ、バン、ヤマシギ、タシギ、ミヤマガラス、ハシボソガラス、ハシブトガラス、ヒヨドリ、ムクドリ、ニュウナイスズメ、スズメ
獣類(20種) タヌキ、キツネ、ノイヌ、ノネコ、テン、イタチ(オス)、チョウセンイタチ(オス)、ミンク、アナグマ、アライグマ、ヒグマ、ツキノワグマ、ハクビシン、イノシシ、ニホンジカ、タイワンリス、シマリス、ヌートリア、ユキウサギ、ノウサギ

狩猟鳥獣の定義では、2つの目的を明示しています。一つは、その肉又は毛皮を利用する目的、2つ目は、管理をする目的です。「管理」とは、鳥獣保護管理法で以下のように定義をしています。

第2条第3項 この法律において鳥獣について「管理」とは、生物の多様性の確保、生活環境の保全又は農林水産業の健全な発展を図る観点から、その生息数を適正な水準に減少させ、又はその生息地を適正な範囲に縮小させることをいう。

「管理」とは、その生息数を適正な水準に減少させ又はその生息地を適正な範囲に縮小させること、です。

次に、狩猟鳥獣の定義に記された2つの目的(肉又は毛皮を利用する目的、管理をする目的)について視てみましょう。

肉又は毛皮を利用する目的

直近20年余の狩猟鳥獣の捕獲数の推移(図-2)からは、この「肉又は毛皮の利用目的」で積極的に狩猟されているのはシカ及びイノシシと思われます。

図2

図-2 シカ・イノシシなど主な狩猟獣の捕獲数の推移(1996~2016年)
「そのほか」はキツネ、テン、オスイタチ、リス類の合計。

ノウサギやリス類、タヌキなどの毛皮獣及びカモ類やコジュケイ、ヤマドリなどの鳥類30種が、1975年頃より一貫して減少してきているのは、主に「肉又は毛皮の利用目的」が失せてきたことが大きな要因と思われます。昭和50(1975)年代初頭、秋田県角館町のイサバ屋の店先には、12頭の真っ白なウサギと3羽のカモ類が吊り下げられていました(太田 1979)し、長野県伊那地方の「猟師―しし買いー山肉屋」の流通システムがありました(第9回コラム)。これらの野生動物の「肉又は毛皮の利用」が昭和50年頃より列島のあちこちから消え失せはじめ、今日へと至っているのでしょう。

表-2は、昭和初期(1932年、1933年、1934年)及び直近(1996年、2005年、2016年)の主な狩猟鳥獣の捕獲数です。狩猟獣の捕獲数は、昭和初期は総数で100~130万頭でしたが、2016年は34万頭でした。2016年のイタチとリス類の捕獲数は、1934年の捕獲数の僅か0.2%にすぎません。また、昭和初期のシカの捕獲数は3000頭前後と少なく、主な捕獲地は九州と関西で、東北の捕獲数は数頭にすぎませんでした。なお、北海道のエゾシカ猟は禁じられていました。

一方、狩猟鳥の捕獲数は、昭和初期は総数で1640~1790万羽でしたが、1996年は285万羽、2005年は86万羽、そして2016年は41万羽へと減少してきています。2016年の総捕獲数41万羽は、1934年の総捕獲数の僅か2.3%でした。これを種別でみると、スズメ類(0.7%)やキジバト(2.5%)、ヤマドリ(2.7%)のように大きく減少している種や、カモ類(22.9%)及びキジ(8.5%)のような種も見られます。これらの減少率は、狩猟者(あるいは社会)の嗜好性を物語っているようにも思われます…。

表-2 昭和初期及び平成における主な狩猟鳥獣の捕獲数

  昭和初期 平成期
  1932年 1933年 1934年 1996年 2005年 2016年
シカ 2,632 3,123 2,837 54,969 120,542 161,134
イノシシ 15,615 19,883 20,158 81,946 139,455 162,731
ノウサギ 616,461 739,340 720,427 101,016 34,519 5,677
イタチ 158,937 173,277 167,352 990 351 315
タヌキ 14,164 14,176 14,048 23,163 12,765 6,579
リス類 124,544 222,817 291,986 433 1,356 446
獣類合計 932,353 1,172,616 1,216,808 262,517 308,988 336,882
  昭和初期 平成期
  1932年 1933年 1934年 1996年 2005年 2016年
カモ類 659,056 721,309 731,099 513,208 337,604 167,107
キジ 323,956 393,763 410,110 187,092 83,614 34,917
ヤマドリ 439,025 648,822 541,894 83,186 22,414 14,396
キジバト 1,077,192 1,221,232 1,645,436 611,390 144,239 41,920
ヒヨドリ 1,216,330 1,384,574 1,650,905 624,346 79,840 89,927
スズメ類 3,002,869 3,494,882 3,436,893 578,299 114,120 24,449
鳥類合計 6,718,428 7,864,582 8,416,337 2,597,521 781,831 372,716

昭和初期には、正に大量の狩猟鳥獣が捕獲されていました。その当時の「狩猟」や「狩猟鳥獣」について、論考『狩猟に対する認識』(山羽 1933)から視てみたいと思います。

山羽氏は、「狩猟はスポーツとも見られ、或いは趣味とも見られようが、日本に於ける狩猟の現状を具に観察すれば、狩猟とは吾人の生活の一部なりと云ってよいかと思ふ」とし、「試みに昭和7年度農林省調査の実績から見ても、…全国狩猟免許者7万6000人の狩猟者によって捕獲された鳥獣の総価格は575万円(注1)に上がるのである。狩猟者一人当たり獲物価格は76円余(注2)であって、これは経済的に恵まれぬ現時の山間漁村の狩猟者にとって、狩猟は生活の一資源をなすものと云ふべきである。」と記しています。昭和7年度、即ち1932年の狩猟鳥獣の捕獲数は、狩猟獣が98万6848頭、狩猟鳥が1642万9998羽(表-2)ですから、これら狩猟鳥獣の総価格が575万円に相当するものと思われます。

さらに続きます。

「…捕獲鳥獣の総価格は全国家畜家禽のそれに比しても大きな部分を占めるのである。この巨額の狩猟捕獲物が、其一部は市場に売却されて狩猟者の私経済を潤し、其一部は野菜以外肉類の乏しい山村僻地の国民に栄養食を供給して、国民保健に資する處多大なるものがあるのである。かう云ふ点から見ても我が国の狩猟は欧米と其趣を異にした、国民大衆の狩猟というべきで、これは誠に日本の国情に合致した恵まれた狩猟であることを祝福するものである。(山羽 1933)」

山羽氏は大日本連合猟友会の常務理事でした。昭和初期の「狩猟鳥獣」と社会のありようを仔細に知ることができる貴重な論考と思います。捕獲鳥獣の総価格は、全国の家畜家禽の総価格にさほど引けを取らないかのような「表現」に驚嘆させられます。国民の食用となる「鳥獣肉」には、家畜家禽及び狩猟鳥獣の肉類が流通し消費されていたことが推測されます。

管理をする目的

「管理」とは、その生息数を適正な水準に減少させ又はその生息地を適正な範囲に縮小させること、です。

狩猟鳥獣を定めた環境省令第7号(2015年)には、「狩猟鳥獣48種のリスト」が列記されているだけで、定義の2つの目的と48種との関り等は記されていません。

シカやイノシシによる農林業等被害は全国各地で大きな社会問題となっていることから、国は2013年に「抜本的な鳥獣捕獲強化対策」を打ち出し、これら2種の個体数を10年後までに半減させることとしています。正に、「管理をする目的」そのものです。

北海道では、エゾシカによる農林業被害が大きな社会問題となってきたのは、1990年頃からでした。当時は北海道の東部に限定された問題でしたが、エゾシカ問題は徐々に道央部や道北、道西部へと拡大し、今では全道一円での対策が取られています。エゾシカは、既に30年余に及び「管理をする目的」でも狩猟され続けています。

また、外来種の狩猟獣への指定は、ヌートリアが1963年、アライグマやハクビシン等が1994年でした。これらの外来種は、環境省が定めた「基本指針」(2016年10月)(注3)の「第4-1-(2)狩猟鳥獣 イ 保護及び管理の考え方」のなかで「特に管理を強化すべき外来鳥獣である狩猟鳥獣については、その持続的な利用の観点での保護の取り組みは行わない。」とあります。その「特に管理を強化すべき外来鳥獣である狩猟鳥獣」のアライグマなどの捕獲数は、この20年余の間、僅か1000頭前後で推移し続けており、殆ど狩猟の対象とみなされていないかのようです(図-3)。従って、外来種への捕獲圧は専ら狩猟ではなく有害鳥獣駆除によるものであり、駆除数はこの20年余増え続けてきていることは、前回のコラムで触れたところです。

図3

図-3 アライグマなど外来種の狩猟獣の捕獲数の推移(1996~2016年)

ノウサギやリス類、タヌキなどの狩猟獣の捕獲数も大きく減少してきており、その一方でこれらの毛皮獣の有害鳥獣駆除数は増えてきています(第11回コラム)。外来種に加え毛皮獣も「管理する目的」と化してきたように思われますが、狩猟での「管理」は最早期待できそうにありません。

『鳥獣行政』は、狩猟鳥獣のこれまでの、そして今後の「捕獲数の推移」をどのように想定しているのでしょうか。『鳥獣行政』が期待する狩猟鳥獣への「捕獲圧」と、猟野の実態には、相当の乖離も見受けられます。更に、狩猟鳥獣の「管理」を視てゆきたいと思います。


注1 「総価格 575万円」を現在に換算すると、約285億円となります。なお、換算に際しては以下を参考としました。
  • ・昭和6年の東京・公立小学校教員の初任給 45円から55円(「物価の文化史事典」.森永卓郎監修.展望社.2008. p398)
  • ・平成29年の東京・公立小中学校教員の初任給 約247,500円(HP)

注2 「狩猟者一人当たり獲物価格 76円余」を現在に換算すると、約38万円となります。なお、換算に際しては注1によりました。

注3 「基本指針」は、「鳥獣の保護及び管理を図るための事業を実施するための基本的な指針」の略称で、環境省が2016年10月に定めたものです。「基本指針」には、国及び都道府県が実施する鳥獣保護管理事業の基本的な事項などを定めてあり、都道府県知事はこの「基本指針」に即して「鳥獣保護管理事業計画」を定めることとされています。なお、基本指針等は、鳥獣保護管理法(第2章 基本指針等)に明記されています。


引用文献

表-2の出典


2020年11月23日公開。イラスト作成協力/平田剛士