伊藤英人の狩猟本の世界
153.『満洲の野生鳥』山縣深雪著、詩と歌謡の社、1942年
満州を拠点に鳥類学を展開した著者の報告をまとめたもの。題字が武者小路実篤、序文が中西悟堂という豪華な顔ぶれ。山階芳麿侯爵とのやりとりも頻出する。
かすみ網で野鳥をたくさん捕獲し、渡りなどを調べている。なかでも満州固有種のコマホオジロ(Emberiza jankowskii)が非常にめずらしいようで、その報告がメインであり、生体を山階侯爵に提供している。コマホオジロを少し調べると「アジアで最も希少な絶滅危惧種」とされており、2016年に「70年ぶりに発見!」という状況であった。また、著者は満州引き揚げの際にすべての標本を失ったとのことであった。
本文の日本語が美しく、一文を引用したい。
「野鳥の渡来はガンを以て魁(さきがけ)となし、渡去はガンを以て殿(しんがり)となす。」