伊藤英人の狩猟本の世界
155.『シベリア先住民の食卓』永山ゆかり・長崎郁編、東海大学出版部、2016年
北方民族のフィールドワーカーによる、食物に関する貴重な体験記録。部族ごとではなく食物で分類されており、重要な順に「魚」「肉」「植物」と続く。
魚はサケマスで、乾燥や薫製などの加工もされ、鮭トバやルイベなどの北海道でおなじみの食べ方と一部通じる。植物は日本では高山植物と呼ばれるガンコウランやコケモモの実が大量に利用されている。ベリー類やヤナギランも重用される。冬、ネズミが蓄えたクロユリのj根を巣穴から拝借するなど、食材の調達法もおもしろい。
肉はアザラシとトナカイが中心。アザラシの脂肪は多様に使われており、生クリームのようにベリー類に混ぜることもある。赤身肉に関しては塩ゆでばかりだが、腱、血液、口唇などなかなか利用しづらい部位の扱いには目をみはるものがある。こうした技術を伝統知から学んでいきたい。日本ではホルモン利用が広まっているように感じるが、赤身偏重・脂肪忌避の傾向はまだ強く、見直されるべきであると思う。
発酵食品もいろいろ出現する。フィールドワーカーはよくまあこんなにいろいろ食べてやっていけるなと感心する。牛乳で腹痛をおこす私には不可能な仕事であるが、海と山の幸が豊富であり発酵に適した気候下で育つ日本人には向いているように思う。