伊藤英人の狩猟本の世界
229.『地上と地下のつながりの生態学』R.バージェット・D.ワードル著、深澤遊・吉原佑・松木悠訳、2016年
土壌生態学の総説の訳本。土壌の本といえば物理学や生化学が多いが、あとがきにあるように、生態学中心の学術書はめずらしい。
地上と地下の生態系の連動は密接で、相互依存的である。たとえば植物は土壌生態系に有機物や根からの滲出物を提供し、外生菌、根粒菌などからの恩恵を受ける。しかし植物の地上部は攪乱を受けやすく、火災、被食、外来種の侵入のたびに正負の影響を受ける。系はとにかく複雑で、何が何の影響なのか特定するのも難しい。しかし、ありがたいことに、本書では研究の状況や課題をしっかり見据えており、各章末の「結論」と最終章の「展望」を読めばこの分野が概観できる。
この複雑極まりない系に対する、植食者(シカやイノシシ)の例が出てくる。植食者は、植物地上部やミミズの採食はもちろん、踏圧、(イノシシの)掘り返し、糞尿・死体の供給によって、スポット状に大きな変化をもたらす。シカ・イノシシの個体数増加や分布拡大は、土壌に大きなインパクトを与えていると考えられる。
狩猟獣の死体処理については、CSF・ASFの防疫措置として、1mくらい穴を掘り、穴に死体と消石灰を入れ、土で埋め戻した後に表土に消石灰を撒くよう指導されている。これが土壌生態系にどう影響を及ぼし、死体がどう分解されていくのかは、よくわからない。