伊藤英人の狩猟本の世界
233.『絶滅動物は甦らせるべきか?』ブリット・レイ著、高取芳彦訳、2020年
本書のテーマはディ・エクスティンクション(逆・絶滅)。絶滅種の復活がかなうのであれば、絶滅ということばはいらない。
なんとも恐ろしい話だが、本書を読んで、実現可能性の低さに心から安心した。真面目に研究している人もいるようだが、人間の欲望だけを頼りに、あってはならない事態が一部の科学者によって起こるというのはなさそうだ。マンモスとの再戦の準備をする必要はない。
(そもそも)過去の生物のDNAや生息環境をそのまま使えないので、たとえば「マンモスっぽい変なゾウ」を生み出すこととなる。リョコウバト再生計画ではまず近縁・非絶滅危惧種のオビオバトのDNA、卵巣、育雛法を借りるしかない。
いわゆるトンデモ本だったのかもしれないとの疑念は拭えないが、自然再生や再導入に立ちはだかる「強固な壁」が明確になったのは本書からの収穫であった。231.『鳥と人間の文化誌』にも出てきたテーマだが、環境省が保護増殖しているトキは何者か、われわれは何をしているのか、考えさせられる。
絶滅種が復活できたとして、その法的な根拠づけが興味深い。「○○っぽい生物」は何者か。製法特許の人工物か、野生種か。保護対象の絶滅危惧種か、侵略的外来種なのか。これってバイオハザード? とにかく、最もワナにかかってほしくない動物となるであろう。
リョコウバト絶滅の経緯が詳しく書かれていた。なんとなく「狩猟が絶滅の原因」と知っていたが、実際は都市に住む金持ちのグルメのせいで価格が高騰し、争うように捕獲された。狩猟だけが原因とは言えないと私は感じた。