伊藤英人の狩猟本の世界

234.『〈正義〉の生物学』山田俊弘著、講談社、2020年

234.『〈正義〉の生物学』山田俊弘著、講談社、2020年

広島大学「保全生物学」講義の教科書。保全生態学や保全手法ではなく、保全にまつわる思想・倫理をていねいに考えていく。最近使われる「正義」はテロリストも主張するアブナイことばに感じるときがあるが、ここでの「正義」は従来のカッコイイイメージで用いられる。

トキやパンダは保全対象にするべきか?
どういった理由で保全すべきか?
「人の生活に欠かせないから」
「将来的に必要になるかもしれない」
「絶滅は自然の摂理だからしょうがない」

ひとつひとつの解答例の問題点をていねいに考察し、最後に残るのは「正義」。もちろん、すべての環境問題の答えが出たわけではなく、問題に直面したときに軸となる考えが示された形であり、決断や調整は当事者に委ねられる。

明快な良書だが、もっと著者の意見を展開してもいいように感じた。そこはおそらく講義で補われる。

学生にも狩猟者にも、「自分の哲学」と「正義の心」をもって、それに恥じない活躍をしてほしい。