伊藤英人の狩猟本の世界

239.『獣害対策の設計・計画手法』九鬼康彰・武山絵美著、農村統計出版、2014年

239.『獣害対策の設計・計画手法』九鬼康彰・武山絵美著、農村統計出版、2014年

農村計画学からみた、獣害への取り組みのレポート。

生態学や動物行動学はメインではない。人間に対するアンケートを基に、地域の合意形成や協働の在り方を探る。せっかくの科学的野生動物管理が現場と乖離しないようにするために、このような社会科学的アプローチ(ヒューマンディメンション)は重要。

筆者らの獣害対策研究の目的は、獣害対策の成功だけでなく、「その先にある豊かで美しい農地・農村を想像する」ことである。この分野では、人間の眼で、農村全体を見ている。

農家にとって最大の懸念は、「後継者不足」である。次に「獣害」がきてしまっており、離農の要因としても上位にある。

獣害は、農家だけの問題ではない、ということが調査から導かれる。非農家、狩猟者、行政にそれぞれの役割があり、うまく調整することでムダな作業や出費を減らすことができる。

獣害の現状把握すらままならないなか、狩猟者にできることは多いし、もっている情報には価値がある。農家にとって狩猟者は良いイメージばかりではなかったが、やりようによってはヒーローになる可能性を秘めている。狩猟者は、農家と良好な関係を築きつつ、美しい農村の創造に一役買うのが理想である。