伊藤英人の狩猟本の世界

245.『野生動物管理のためのフィールド調査法』關義和・江成広斗・小寺祐二・辻大和著、京都大学学術出版会、2015年

245.『野生動物管理のためのフィールド調査法』關義和・江成広斗・小寺祐二・辻大和著、京都大学学術出版会、2015年

学生などの研究計画立案に至適の一冊。なかなか思うように姿を見せてくれない野生動物を研究対象とする難しさ、そしておもしろさがある。痕跡判定、データ解析、個体数推定など、どれもかなりの難題だが、誰かが立ち向かわねばならない。そのようななか、第一線で奮闘する研究者たちが執筆する。研究事例の文献リストも充実しており、研究計画中の学生にはとても助かる。

第1部の痕跡編はカラーで、取り外して現場で使えるようになっている。しかし、この凝った製本のせいか、増刷が進まず、品薄状態が長く続いている。あまねく浸透してほしい内容なだけに歯痒い。京都大学学術出版会には増刷か第2版出版を期待する。

「捕獲編」を追加してもよいのではないかと思った。捕獲は実際の動物を見る貴重な機会であり、体サイズやDNAなど得られる情報量も多い。学術調査捕獲は(当然)規制も緩めであり、ぜひ挑戦してほしい。非侵襲的研究が主流なのだろうが、狩猟や個体数調整が行われるなか、学術研究に生かされず埋没している情報が多いように感じる。狩猟者への調査協力依頼ももっとしていいと思う。動物や自然に敬意のある狩猟者なら、同じ思いをもつ研究者に協力することを誇りに思うはずである。